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地球儀 世界の人口80 億人突破をビジネスチャンスと捉える種子の国際的な寡占企業

(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦

眼前の深刻な問題を解決する処方箋を示せない日本の経済学者は、「経済」を論じる「経済学」者ではなく、既存の「経済学」を単に扱う「経済学学」者に堕しているとのきつい表現をしたのは、都留重人であった。1950年のことである(同氏『経済学への反省』時事通信社)。しかし、私はこの種の向こう受けを狙った警句なるものに反発を覚える。むしろ逆に「経済学学」者が少なくなっている現状に危機感を抱いている。


2022年11月に世界の人口は80億人を突破した。ところがエコノミストの多くが、人口増大を加速させているアフリカ、とくにサハラ以南地域にこそビジネスチャンスがあると、その地への投資を推奨している。彼らの目には、人口爆発が、ビジネスに利益をもたらす状況として映っている。逆に、彼らは、異口同音に、OECD諸国の人口減少こそが「成長の限界」であると述べている。人口爆発を「凶」と理解していた50年前とは正反対に、いまでは、人口爆発を「吉」と見る説が横行しているのである。


「ローマクラブ」が、人口の急激な増加こそ「成長の限界」であるとの警鐘を大々的に流したのは、1972年であった。その時の世界の人口は38億人弱に過ぎなかった。


しかし、いまでは、これまで農業とほとんど関係のなかった化学メーカーが、農業会社や種子企業を買収して国際的な寡占企業として君臨するようになった。気候の激変に対応できる新しい食料を創る「遺伝子組み換え種子」(GM)を開発するとの宣伝文句で、世界の超富裕層に投資を呼び掛けている。最大の広告塔がビル・ゲイツである。


2018年末時点で、デュポン(2019年に農業部門が分離してコルテバになった)、バイエル、ケムチャイナ(後、シンジェンタという名称を復活させた)、BASFのわずか4社で、種子市場の占有率が6割に達している(ETC Group, 2019)。ちなみに日本の野菜のほぼ90%が購入種子に依存している。こうした「凶」から「吉」を繰り返してきたのが歴史である。「経済学」はこれを主要なテーマにしてきた。「経済学」を「学」と学び直す「経済学学」者が欲しい。

2022.11/12

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