(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦
2022年2月24日に開始されたロシアのウクライナ侵攻によって、世界の食料危機が危惧されている。主要食料の二大輸出国であるロシアとウクライナの輸出が停滞してしまうのではないかという観測が食料の国際市場に混乱をもたらしているからである。
しかし、これとは正反対に、ロシアの食料輸入の巨大化が食料危機を生み出しているという理解が、いまから40年も前の1980年代には一般的なものであった。そうした危惧からNHKの取材班は、『日本の条件』の第6巻(1983年)で、「<食糧問題>は、<石油>とともに日本にとっては国際的な条件を無視できないテーマである」と指摘していた。
この書ではFAO(国際連合食糧農業機関)の年報(食料・農業統計)の数値を基にした世界の穀物貿易の推移を表示している(同書、6ページ)。
1970/71年~1980/81年の主要輸入国の数値は以下の通りである。
1970/71年時点で、日本の穀物輸入は1530万トンと世界全体の輸入(1億630万トン)の14.4%を占め、世界の中では突出していた。当時のソ連の食料輸入量は90万トンと世界全体の0.8%に過ぎなかった。
ところが、1980/81年になるとこの数値に大変化が起こった。ソ連の輸入が3490万トンと10年前の38.8倍と激増したのである。これは、世界全体の輸入(2億880万トン)のうち、16.7%という大きなシェアであった。
歴史の変化の急速さに私たちは気付くべきだし、歴史をきちんと押さえなければ、現在も分からないということも肝に銘ずるべきである。
2023.1