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地球儀 「時よ止まってくれ!」の願い

(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦

人工知能(AI)研究の第一人者であるジェフリー・ヒントン(Geoffrey Hinton、1947年~)が、Googleを退社したと2023年5月2日に語った。想定より遥かに速くAIの知能が人間を追い抜くことに気付いて、その危険性を訴えるために、Googleの外で人々に訴えたいというのがその理由であると各紙が報じた。GPT-4のような新しい大規模言語モデルの出現に驚愕したからであるとも言われている(同年5月2日付technologyreview.com)。


GPTとは、“GenerativePre-trainedTransformer”(生成可能な事前学習済み変換器)の略称である。脳が発する情報伝達機能を言語化したものである。開発者の一人がヒントンである(2018年チューリング賞受賞)。脳情報の言語化によって、AIは情報分析機能を持つことになった。


言語機能を有効に使えば、脳卒中やALS(筋萎縮性側索硬化症)などによって話すことができなくなった人々を支援することもできる。


しかし、いまやGPTの第4段階であるGPT-4は人間の能力を超えつつある。性能の指標を搭載されたパラメーター数で見ると、初代GPT-1は1億程度であった(2018年)。


1年後のGPT-2になると10倍の15億(2019年)。GPT-3は1,750億(2020年)(Nature Neuroscience, 1st May, 2023)。最新型のGPT-4の数値は公表されていないが、ヒントンの恐怖感がその巨大さを示している。


GPT-4を悪用すれば、他人の心の中を読み取ることはおろか、人々の意識そのものを変えてしまうこともできる。専制君主的権力者がこれを兵器化してしまう可能性はゼロではないのである。


米国の調査会社の「ユーラシア・グループ」が2023年1月3日に発表した「2023年の世界10大リスク」には、一位ロシア、二位中国の次の三位として、「大混乱生成兵器」が位置付けられている。「生成系AIの進歩や普及が、政治・経済の混乱を起こす可能性が大きい」と言うのである。


ところが、日本のメディアは、生成AIの日本上陸を歓迎する記事を載せた。「Google、生成AIを日本語で提供、40言語対応」というタイトルで日本が第一号に選ばれたことを強調したのである(『日本経済新聞』2023年5月11日付き夕刊)。

2023.5/6

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