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地球儀 「カギケノリ」(鉤毛海苔)のビジネス

(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦

カギケノリは、筆の穂先の形をし、10~30cmくらいの高さになる赤紫色の「ノリ」である。海藻の好きな日本人にも、食材としてはほとんど知られていない。高知県の西南端で、土佐清水市と宿毛市の間に位置する大月町の水深10mという深い海中でよく見られるという。


カギケノリは、牛に与えると、牛のゲップから排出されるメタンガスを大幅に削減できるとして、近年注目を集めている。


メタンは、CO2の28~34倍もの温暖化作用があり(BBC、2023年1月24日)、世界では「地球温暖化防止のために牛肉や乳製品を食べることを控える」という運動が広がっている。2021年4月、米国の人気レシピサイト「Epicurious」が、「世界で最悪の気候犯罪者に出番を与えないために」、牛肉のレシピの新規掲載を取りやめると強い調子の声明を出した(NHK・TVニュース、2021年5月24日)。


ネット社会の特徴であるが、この種の議論が加熱すればするほど、カギケノリという赤い海藻を利用するビジネスチャンスが来たと時流に敏感な投資家たちは張り切る。この赤い海藻を利用して牛のげっぷ問題を解決するには、海藻を簡単に養殖できるようにする必要がある。世界中の牛の餌に使うには、海藻が20億トンも必要になる。それには、巨額の開発投資が必須となるが、事業として成功すれば、その報酬は莫大なものになる。


案の定というべきか。ビル・ゲイツによって2015年に設立された「ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ」という投資会社が、1200万ドルを、オーストラリアのパースに本拠を置く新興企業Rumin8に投じた(2023年1月)。同社は、ガスの発生を止める、赤い海藻から合成された栄養補助食品の開発に取り組んでいる。


ちなみに、ビル・ゲイツのこの投資会社には、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)や中国企業アリババ(Alibaba)創業者の馬雲(ジャック・マー、Jack Ma)も出資している。


しかし、これでいいのか? 気候変動問題が、短絡的にビジネスに結びつく欧米の風潮はいかがなものか。重要なことは、生き物すべての営みの帰結である貴重な「土壌」への認識を、多くの人が共有することである。

2023.7

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