(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦
大規模な戦乱の終結後、過去には、戦勝国が、敗戦国はもとより、被支援国の食料政策を、食料安全保障と称して、自らがイニシアティブを執る相互安全保障の枠組みに組み入れることが常態であった。第2次世界大戦後の米国の対日食料援助政策がその典型である。
米国の1951年「MSA」(Mutual Security Act、相互安全保障協定)は、経済援助、相互防衛、国際開発の3つを眼目としたもので、食料援助の項目は入っていなかった。そこで、1953年版MSAで、米国による食料援助と引き替えに、相手国に共産圏に対抗する軍備増強を義務付けたのである。
1954年、食料難に苦しんでいた日本は、米国の要請でこのMSAに調印した。そのお陰で、60万トンの小麦、11万トンの大麦(ちなみに、米国では「麦」という総称はない)、総額5千万ドルもの農産物を受け取った。日本の厚生労働省は、米国の意に沿うかのように、同年に「学校給食法」を成立させ、小麦をパンにした給食が本格化した(以前のガリオア・エロアによるパン給食は1950年に頓挫していた)。同年、自衛隊が創設された。
政府は、これら小麦を政府管理下に置き、食品会社に売却することによって得た資金を復興資金に使えた。この民間を通さずに「政府が米国から調達する」という姿勢が、米国の種子会社による日本での独占的販売を許す舞台となった。子孫を作らない「F1」(Filial 1=最初の子供)という種子のほとんどは米国製であり、大豆のみならず、あらゆる日本の野菜の種子が米国発のF1である。現在、価格が暴騰している鶏卵を生む鶏のヒヨコも9割が米国からのF1である。
悲惨な戦場と化しているウクライナも、いずれ米国傘下の食料政策を受け入れざるをえなくなるだろう。爆撃を受けて荒廃した農地の生産能力が急激に落ちるからである。
2023年7月18日、『ル・モンド』紙は報じた。2021~22年のトウモロコシと小麦の生産高は、それぞれ、4,200万トン、3,300万トンであったのに、2023~24年では、それぞれ、2,500万トン、1,750万トンと、2年間でほぼ半減すると予想されると。
2023.8