(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦
ある品目の輸入量が、許容範囲を超えた時に、緊急に輸入制限する措置を、「セーフガード」という。一時的に関税引き上げや数量制限をすることが、セーフガードの内容である。
日本政府は、2017年8月、米国やカナダ産などの冷凍牛肉にセーフガードを実施し、関税を38.5%から50%に引き上げた。この時のセーフガードは年度末(2018年3月末)までの8か月間にわたった。この措置の停止後は、関税も元の38.5%に戻された。
そして、2020年1月に発効した「日米貿易協定」(Trade Agreement between Japan and the United States of America)によって、関税は、25.8%に引き下げられた。
ところが、2021年3月、日本政府は米国産牛肉に対してセーフガードを再度発動して、関税を元の38.5%に引き上げた。この措置は、日米貿易協定が発効して以後のことであり、米国政府の怒りを買った。日米両国はこの措置の発動から10日後に、セーフガードの発動基準の見直しについて協議を始めた。
案の定と言うべきか。2022年12月、日本政府は声明を出した。米国産輸入牛肉に対して、2023年には、このセーフガードを発動しないと。
ちなみに、日本の牛肉輸入は、オーストラリアと米国の2国だけで、90%を超えている。オーストラリア産が53%、米国産が39%である。
2018年12月、「米国抜き」の11か国によって、「環太平洋パートナーシップ協定11」(Trans-Pacific Partnership Agreement 11=TPP11)が発効した。これによって、オーストラリアなどTPP加盟国産の牛肉関税率は38.5%から27%台まで下がっていた。
さらに、2015年、日本とオーストラリアは、「経済連携協定」(EPA=Economic Partnership Agreement)を結んだ。これによってオーストラリアの輸入牛肉の関税は最終的に19.5%にまで下がることになった。このような中で米国産牛肉関税が引き上げられたのである。当然、米国はこの措置に噛みついた。日本の抵抗は1年にも満たないものであった。「牛海綿状脳症」(BSE)問題よりもさらに弱腰の日本政府である。
2023.9