(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦
2021年度の世界の大豆生産量は約3.6億トンであった。このうち、ブラジル、米国、アルゼンチンでの生産が約8割を占めた。第一位のブラジルは1.27億トン、シェアは36%もあった。二位米国は1.21億トン、シェア34%。三位アルゼンチンは0.44億トン、シェア12%。
輸出国になると集中度はもっと高くなる。ブラジルだけで過半数のシェアを確保している。7.94億トンの輸出、51%のシェア。二位の米国が5.78億トン、シェア38%。これら二国だけで輸出のシェアはほぼ9割に上っている(農水省、「大豆をめぐる事情」2023年)。
統計数値だけを見ていると不可思議に思えることがある。生産量シェアで12%の三位であったアルゼンチンが、輸出シェアがわずか2%の0.03億トンしか輸出していないのである。あの膨大な生産量が国内で消化されたかのように錯覚してしまう。真相は統計の取り方にある。ここで提示した統計数値は、米国農務省(USDA=U.S. Department of Agriculture)の‘Production, Supply & Distribution’のものであり、大豆を原料とした化学的加工品を含んでいない。
別の統計によれば(FAOSTAT, 2021)、アルゼンチンは、2020年時点で、大豆油の輸出量は他国を大きく引き離して、520万トンもあった。二位は米国120万トン、三位はブラジル110万トン。
大豆ミールでも似たようなもので、一位のアルゼンチンが2,220万トンと突出し、二位ブラジルは1,690万トン、三位の米国は1,000万トン。つまり、アルゼンチンは自国で生産した大豆を加工度の低い食品としてでなく、高度な加工品として輸出していたのである。
大規模な生産・流通市場が存在するということは、巨大な輸送網を築き、世界各地に穀物の保管場所と施設を持つことができる大資本にとって、格好のビジネスとなる。巷の流行語になっていた「ABCD」という「穀物メジャー」が台頭した背景がこれである。
自ら油田開発などを担う「石油メジャー」と違い、穀物メジャーは基本的には穀物を作ってはいなかった。農家から穀物を買い入れ、これを需要家に売却することで得るという流通マージンが収入源である。
メジャーの収益の大元は、穀物流通の根幹を握っている点にある。「エレベーター」や「サイロ」などの穀物貯蔵施設、鉄道網、大型貨物船、港から沖合の大型船までを行き来する小舟、農地からサイロまでを往復するトラック等々。メジャーは、穀物の集荷・保管・積み出しに必要な設備・運搬機器を多数保有し、穀物生産地に集荷網を張り巡らし、穀物供給の上流から下流までをガッチリと押さえている。天候や、穀物の生育状況などの情報も、人工衛星を使ってしっかりと把握しているし、価格変動に備えて先物取引などの金融面でも有能な人材を抱えている。
メジャーは、流通市場における卸売業と見なしてもよい。
2023.10