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地球儀 日常を科学の課題としたルイス・カランザ

(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦

現在多くの人が関心を寄せ始めているものにエルニーニョ(El Niño)現象がある、しかし、気付いてくれるのが遅すぎた感がある。


目の前の明瞭な現象が、私たちの理解をはるかに超えた複雑なものであることを、私たちは思い知らされる時がある。エルニーニョはその1つである。


例えば、チリ地理学会(Chilean Geographical Society)会長のルイス・カランザ(Luis Carranza)は、チリの民衆にとってはありふれた日常の出来事であったエルニーニョ現象を、初めて学問の中心課題に位置付けた。エルニーニョは、19 世紀末に登場したものではなく、はるか何千年も前から地上に天候異変をもたらしていたものである。ところが、私たちは、カランザのお陰で、やっと最近になって、ことの重大性に気付かされたのである。


1891年、大きなエルニーニョ現象が発生した。乾燥地帯であるペルー北部の砂漠に集中豪雨があり、西岸の港町は洪水による大被害を受けた。惨状が起こった時、首都のリマではチリ地理学会が創設され、会長にカランザが選ばれていた。会議終了後の会誌(Bulletin)に彼は、短い論文を寄稿した。以下、それを要約する。


ペルー最北部に近い西岸に重要な2つの港がある。パイタ(Paita)と、それよりもさらに北に位置するパカスマヨ(Pacasmayo)である。これらの港の間の海域では、海岸に沿って南から北に向かって流れる寒流に、北から南下してきた暖かい表層海流が乗り上げるという現象が間欠的に見られる。


パイタの船乗りたちは、この不思議な現象を日常のものとして捉えていた。この現象は、クリスマスの時に起こることが多いので、彼らはこの現象を「神の御子(男の子)」(エルニーニョ)と呼んでいた。


表層海流の反対潮流に乗り上げるという現象は、他の海域でも観察される。乾燥して降雨はめったにない地域で、この現象が発生すると豪雨になる。なぜなのかが解明されなければならない。この点の研究が、世界の気候変動の謎を解く非常に重要なものになる。私はここに集われた会員の皆様の関心を喚起したい。(Samuel,Philander[1990], El Nino, La Nina, and the Southern Oscillation, Academic Press, San Diego. より引用)。まさに至言であった。

2023.11/12

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