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地球儀 演繹的論理学と帰納法的統計学との統合を目指したギルバート・ウォーカー

(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦

「世界各地の気候は、相互に複雑な影響を与え合っている。その相関関係を理解するには、これまでの物理学では不十分である」(Walker, G.[1923], Memoirs of the Indian Meteorological Department (India Meteorological Department))。


これは、新しい統計手法を使って「南方振動」(Southern Oscillation)という現象を説明する新しい気象学の創始者として、今日では最大級の高い評価を受けている(膨大な資料を集めなければならない彼の手法は、当時のほとんどの気象研究者から無視されていた)ギルバート・ウォーカー(Gilbert Walker, 1868-1958)が、「インド気象局」を退職する前年に書いた文章である。


若い頃から、ブーメランの投擲手法を完全にマスターしたウォーカーは、変化する気流間の相互作用を解明したいという思いに取り憑かれていた。実際に彼はブーメランに関する論文を書いている(Walker, T. G. [1901],“boomerangs.” Nature (Nature Publishing Group) 64)。空気力学についてほとんど知られていなかった当時、ブーメランが優れた空気力学的な側面を備えると彼は気付いていた。ブーメランの速度成分と回転成分の項を用いてブーメランにかかる空気力学的な力とモーメントを表し、これらの力の作用に基づく独特なブーメランの運動を分析したのである(ウィキペディア、ギルバート・ウォーカーの項による)。


そしてついに、ケンブリッジ・トリニティ・カレッジ数学科講師という安定した研究者生活を捨てて(1903年、36歳の時)、インド気象局に就職し、翌年その長官に就任した。


彼が得た知見は、遠く離れた異地点間の気圧には、一方が上がれば他方が下がるというシーソーであるというものであった。それを理解するには、大前提から演繹的に論理するだけでは駄目で、目の前の現実を直視して、帰納的に事象の相関性を重視する数量的手法も取り入れなければならないと彼は信じていた。その考え方は、「セント・ポール・スクール」(St Paul's School,London)の実践教育で名高い校長・フレデリック・ウォーカー(Frederick William Walker, 1830-1910. 親族ではない)の影響が大きかったと思われる。


https://www.encyclopedia.com/science/dictionaries-thesauruses-pictures-and-press-releases/walker-gilbert-thomas に依拠した。

2024.1

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