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地球儀 次元の格差を重視して、観察先行の立体的理論を目指したジェイコブ・ビヤークネス

(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦

今では、「エルニーニョ」は、世界中の人々に馴染みのある単語となった。その現象をさらに緻密に分析する研究も進み、その成果によって、私たちの日常生活でもっとも重要な天気予報がますます正確なものになってきた。その過程は、具体的な処方箋を提示できない抽象的な大理論を遠ざけ、なるべく日々必要になる正確な情報を提供したいという研究者たちの地道だが、息の長い膨大な調査によって裏付けられたものである。


中でも、ありふれた現象であるにも関わらず、世界の研究者たちが気付かなかったペルー沖の暖流と寒流の相互作用が天候を左右することを分析したルイス・カランザが、新しい気象学の世界を切り拓いた(2023年11/12月の地球儀で紹介)。


アボリジニたちのブーメランに感動して、貿易風が作る赤道海流の温度差が気候変動を循環させるとして、南方振動(ウォーカー循環)を理論化したギルバート・ウォーカーが、気象学を第二局面に押し上げた(2024年1月の地球儀で紹介)。


そして、今回紹介するビヤークネスが、エルニーニョ現象を、ペルーという局地的なものではなく、世界の至る所で存在していて、海流と気流との相互作用に基づいて生じる異常気象が繰り返し生じる原因であるという「EN-SO」論を打ち出し、第3の局面を定着させたのである。この新語は、エルニーニョ(El Nino)と南方循環(Southern Oscillation)の2つの単語の頭文字を採ったものである。


エルニーニョとラニーニャは、熱帯太平洋全域で繰り返される温暖期と寒冷期の気候パターンである。このパターンは2~7年ごとに不規則に変化し、海面温度に予測可能な変化をもたらし、熱帯地方全体の風と雨の安定時のパターンを乱す。熱帯太平洋地域の混乱が、世界の他の地域に波及して、世界的な異常気象をもたらすというのが、EN-SO論である。この理論の重要な点は、小さな地域的変化に観察の焦点を定めたところにある。


主として https://www.britannica.com/biography/Jacob-Bjerknes に依拠した。

2024.2

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