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地球儀 民間ロケットカイロスの事故に関しての経営陣の発言の怖さ

(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦

2024年3月13日午前11時に発射された日本発の人工衛星打ち上げ用民間ロケットが点火後数秒で自己破壊した。ロケットの町にしたいと全力投球していた和歌山県串本の人々は複雑な表情を浮かべていた。翌日、当該企業が開いた記者会見を見て、私は非常に大きな衝撃を受けた。当社には失敗という言葉はない。何が起こったのかを検証することが重要であることは当然であるが、検証結果が出てくるまで、待っていては激しい競争に生き残れない。新製品開発は瞬時も手を緩めてはならない、等々。


この威嚇ともいうべき開発姿勢が、世界中の全産業で見られる。とくに、遺伝子編集に邁進している食品産業で顕著である。


例を養殖サバに見よう(NHK、クローズアップ現代、2019年9月24日放送)。ゲノム編集の技術を使えば、肉厚のマダイや栄養価が高いトマトなどを短期間で開発することができる。


サバの陸での養殖が難しいのは、餌が不足すれば、共食いをしてしまうからである。


ハサミと呼ぶ特殊な酵素がある。この酵素を魚の受精卵に注入する。すると、受精卵の内部で遺伝子変化が生じる。サバの攻撃性を司る遺伝子部分を、酵素がピンポイントで切断したことで、攻撃性が抑えられ、共食いしにくい性質に変化する。


それまで1割程度であった稚魚の生存率が4割にまで上昇した。難しいとされてきたサバの養殖の可能性を広げると期待されている。


実はこれまでの自然に委ねていた品種改良というのは、天然の放射線などでゲノムが切れることによって起こってきたものである。ゲノム編集というのは、これをピンポイントで起こすことによって品種改良のスピードをアップするものである。その発明の凄さは賞賛されてよい。1つの遺伝子が除去された後も、サバは同じ姿を取り付けるだろうか?新しい無秩序な姿を自然は見せるはずだ。無秩序に見えるのは開発者という狭い枠の中で生活されている人たちだけ。


このまま安全性に関する治験がおろそかになってしまえば、私たちは自然の大規模な抵抗力によって、大混乱に見舞われる。虚心に、治験を繰り返して、自然の複雑さを虚心に追って行くしかない。

2024.4

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