(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦
外国では旧い歴史を持ち、法制的にも整備されてきた「労働者協同組合」であるが、日本ではやっと2022年10月1日に「労働者協同組合法」が施行されたにすぎない。そして、まる2年も経つのに、いまひとつ盛り上がりに欠ける。
しかし、とてつもなく大きい資産格差の存在、世界各地で頻発している侵略戦争と内戦、威嚇が飛び交う議会政治、等々が恒常化してしまった絶望的な今日、労働者協同組合が産み出せる小さなコミュニティの豊かな人間性に私たちは、希望を託して、出来ることから出発したらいいのではないか。
組合員はすべて経営者であり、従業員であるといった抽象的な概念をいくら唱えていても、事は成就しない。既成の企業や、労働組合、自治会の外に新しいコミュニティを創らねばならないという先入観を捨てるべきである。
まず、既成の組織内で労働者協同組合を創ってみてはどうだろうか。
小さいが非常に豊かな人間性を持つ労働者協同組合の一例を紹介しよう。
経ヶ岬通信所(在日米軍の通信所)の存在で、平和団体から蔑視されている京丹後市が力を注入している「京丹後市ふるさと創生職員制度」がそれである。
人口の急激な減少(直近の5年間で13.4%)に見舞われ、2024年時点の高齢化率45.3%である同市の公務員がこの制度を創った。現役の公務員が市役所の内部に労働者協同組合を創ったというのは歴史的な快挙である。市外の人に呼びかけ、副業を持っても自由であるが、必ず京丹後市の住民になって市役所に入所することが条件である。副業で自分らしい生き方をしつつ、公務員の仕事もするというのが重要なポイントである。
コンビニはなく、スーパーまでが撤退し、生鮮食品を買えなくなった上、ガソリンスタンドも撤退の意向を示す典型的な過疎地域だからこそ、新しいコミュニティが生まれたのではなかろうか。
2025.1