(公社)国際経済労働研究所 所長 本山 美彦
ヘンリー・フォード(Henry Ford、1863-1947)は、自らが築いた自動車王国に強い自責の念を抱いていた。働く人が自動車産業に群がってしまい、農業に従事する人が激減してしまうのではないかと。農業の衰退を防ぐためにも、製造業と農業が互いに補完し合って発展するにはどうしたらいいのかと。
1928年という早い段階で、フォードは「農作物を自動車の材料に変え、自動車所有者と農家の両方に利益をもたらす」という構想を打ち出し、1931年、農産物の大豆に注目して、グリーンフィールド・ビレッジ(Greenfield Village)に大豆の研究所を建設し、大豆の様々な加工品の試作に熱中した。大豆から塗料用の油を抽出したり、ギアシフトノブなどの小さなプラスチック製自動車部品を成形した。もちろん、バイオ燃料も開発した。
大豆自動車と言えるものが完成したのは、1941年であったと推測されている。完成品は自分の手で破壊してしまった。
1946年、フォードモーターカンパニーは、自社が、「農場で自動車部品を栽培した最初の企業」であるという広告を大々的に打ち出した(https://www.thehenryford.org/collections-and-research/digital-collections/expert-sets/7149)。
石油の代替燃料を造る試みは、今でも、グリーンフィールド・ビレッジが所在しているオレゴン州の農家で続けられている。特に栽培されているのは、菜種の一種のキャノーラ(canola)である。キャノーラからは、大豆に匹敵する高度のバイオ燃料が採れる(https://www.canolacouncil.org/biofuels/)。
米国財務省は、2025年1月10日、インフレ削減法(IRA)に基づく「クリーン燃料生産クレジット」(IRC45Z)に係るガイダンス案を発表した。そこには、クリーン燃料の原料となるトウモロコシや大豆などに関し、「気候スマート農業」(CSA)によって生産された場合には、有利になる追加ガイダンスの発行なども予定していると発表した(https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/01/ed2d9408516de1f5.html)。
2006年の秋以降、トウモロコシが1.6倍、小麦は1.3倍と、世界の穀物価格は急騰している。農産物の値上げの直接の原因は、バイオマス・エネルギーの需要の高まりにある(https://imidas.jp/jijikaitai/a-40-014-07-08-g016)。
確かに、もったいない。では、次は、食料ではない数々の野草を友にしてきた日本に住む私たちの出番だ。
2025.3