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11:岐路に立つカナダ労働運動 後編<2/2>

4 試練のなかのソーシャル・ユニオニズム

CUPEは公共部門労働者が中心のため、自由貿圏のなかでもソーシャル・ユニオニズムを維持できたのは理解できるが、最も厳しい自由競争に晒される自動車産業労働者を中心とするAWが戦闘的労働運動を維持できたのは、カナダのほうがアメリカよりも労働コストがかなり低いという事情があった。CAWが結成された当時、カナダはアメリカよりも時間当たり労働コストで8ドル安かったといわれ、その後ほぼ20年間は労働コスト上の優位性を維持していた(Caulfield
2010: 148)。この優位性は、カナダが充実した公的健康保険をもつため、高額な民間保険契約を結ぶ必要がないことと、カナダドル安が常態化していたことによって保たれていた。しかし近年カナダドル高となり、しかもUAWが大胆な賃金・企業福祉の削減、さらには非正規雇用を許容するようになったため、カナダの労働コスト上の優位性は消失し、カナダの自動車工場は真っ先に合理化の対象に挙げられるようになった。

このような新局面においてCAWは、2007年に入ると柔軟路線へと急旋回する。1992年からCAWを率いてきたバズ・ハーグローブは、3月、クライスラーのオンタリオ州ブラムプトン工場において、経営側の合理化案に同意しなければ、同工場は閉鎖に追い込まれると警告した。ハーグローブは、10月には、反労働組合で名高いマグナ・インターナショナル(自動車部品巨大メーカー)のオーナー、フランク・ストロナックと「公正枠組」合意を結び、CAWは、無期限のストライ
キ放棄、労働者苦情手続きの変更などを受け入れ、その見返りとしてマグナでの組織化を許されることになった。「マグナ・ディール」に対しては一般労組員のみならず、指導部内からも強い批判が起こったものの、CAW前会長ボブ・ホワイトは「『新しい現実』に対応するもの」とハーグローブの決断を称賛した。その後CAWは、「マグナ・ディール」に準じて、GM、フォード、クライスラーと賃金・労働条件の見直しについて合意する(Caulfield 2010: 179-196)。

このようにCAWは一転UAWに追随するようになったが、その後も組織衰退の流れを食い止めることはできなかった。2013年の傘下組合員数は19万5000人であり、2004年時点と比べると7万人減となっている。こうしたなか、2013年8月31日CAWは、2年近くに及ぶ交渉の末CEPと合併し、新組織UNIFORを立ち上げた。傘下組合員30万人を誇る民間最大労組の誕生である。UNIFORの運動を評価するにはなおしばらくの時間を要するが、そのホームページをみれば、UNIFORは、民間における組織率が著しく低下したため、減税、労働市場規制緩和、企業主導の自由貿易協定といった政策に労働組合が効果的に対抗できなかった点を反省し、組合員の職場での権利を改善し、組合の恩恵を未組織労働者やその他の利害関係をもつカナダ市民に拡大するよう最強かつ効果的な組合建設を目指すと謳っている(http://www.unifor.org/en/aboutunifor/history-mission、2014年3月11日閲覧)。

UNIFORは、かつてのCAWよりは穏健であるが、2007年以降のCAWのUAW化、もしくは再アメリカ化に一定の歯止めをかけようとしているといえる。

最後に興味深い事例を紹介しよう。2014年2月、ほぼ11カ月におよぶカナダの小さなビール工場のストが終結した。ラバットといえば、モルソンと並ぶカナダを代表するビールメーカーであるが、1995年ベルギーのインベブに買収され、国際的なビール企業の一部になった。2013年3月ニューファンドランド&ラブラドール州のSt.ジョンズ工場労働者たちは、経営側から示された労働協約案は従来彼らに認められてきた権利を奪い、二層雇用制を認めるものであると判断して、これを拒否し、ストライキに突入した。経営側の合理化案は、上記の自動車産業と同様の動きであるが、St.ジョンズの労働者たちは、CAWとは異なり、この提案を拒否したのである。そして11カ月のストを戦い抜き、職場復帰を果たした。この工場労働者の数は、実はわずか45人にすぎない。

少人数の工場労働者たちが長期ストに耐えられたのは、彼らが参加するニューファンドランド&ラブラドール公共部門・一般労働者組合(NAPE)の全面的支援があったからである。そしてNAPEを支え得たのは、全国組織NUPGE(National Union of Public and General Employees)である。34万人労働者を率いるNUPGE会長のジェイムス・クランシーは、「ストライキに入ったとき、彼らはカナダ国内だけでなく、国際的なビール工場労働者のために立ち上がった。国際コミュニティは、彼らの犠牲的行為を認め、信じられないほどの連帯で応えてくれている」と語る(http://nupge.ca/content/11207/nupge-solidarity-strikinglabatt-workers-newfoundland、2014年3月16日閲覧)。

UPGEは、St.ジョンズ工場の闘いはインベブの国際的合理化戦略に抗するものであり、St.ジョンズの敗北はカナダ、そして国際的なビール工場労働者の敗北につながるという象徴的意味づけに成功した。NUPGEは、ラバット・ビールの不買運動を展開し、CLCもこれに同調した。その効果のほどについては見解が分かれるが、経営側がラバット・ビールのイメージ低下を怖れたことは想像に難くない。新たに結ばれた協定では、労働側は賃上げを勝ち取る一方、早期退
職制度の導入を含む雇用柔軟化戦略を認めた。この妥協案が生み出す効果については今後の経緯を見守るほかないが、そもそもこのような長期ストが闘われたというところに、グローバル化に抗して労働者の権利を守ろうとするカナダ労働運動の質と力量が示されているといってよいであろう。

参照文献
日本語(50音順)
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ゴンパース、サミュエル(1969b)『サミュエル・ゴンパース自伝(下)―― 70年の生涯と労働運動』(寺村誠一他訳)日本読書協会。
佐々木専三郎(1977)『サミュエル・ゴンパース研究』晃洋書房。
新川敏光(1997)『戦後日本政治と社会民主主義』法律文化社。
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新川敏光(2007)『幻視のなかの社会民主主義:戦後日本政治と社会民主主義(増補改題)』
法律文化社。
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英語(アルファベット順)
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