専修大学法学部教授 伊藤 武
1. 現代イタリアにおける三大労組の課題
戦後の第1共和制下の労働運動で長年主役の座を担ってきたのは、いわゆる三大労組であった。第2次世界大戦後、イタリアの労働運動は、終戦直後の短い統一の時期を経て、東西冷戦の影響下で左右に分裂した。
イタリア労働総同盟CGILは、共産党系の多数派と社会党左派からなる。イタリア最大の組織力を持つ労組としての地位を維持してきた。イタリア勤労者組合同盟CISLは、カトリック系の労働組合として、20世紀後半政権与党に止まり続けたキリスト教民主党左派と密接な関係にあった。CGILには及ばないものの、組合員数ではおよそ2/3の勢力を誇る。最後に、イタリア労働連合UILは、社会党・共和党系の労働組合である。他の2労組よりも組織力は劣るが、カトリックでも共産主義でもない世俗勢力の受け皿として機能してきた。
三大労組は戦後経済発展の波に乗り、イタリアの経済運営に不可欠なプレイヤーとしての地位を確立した。他方、政党との複雑な関係、産業構造の変化、経済国際化の影響を受けて、困難な対応を迫られてきた。とりわけ、1990年代に入り、東西冷戦の終結、EU統合の進化と拡大、経済グローバル化、そしてあらたな第2共和制の成立は、労働運動をめぐる社会経済環境と政治環境を抜本的に変えた。特に組織率の低下と労働市場の構造変化に直面して、 男性正規労働者を中核とした組織モデルの再検討を迫られている。
本稿は、現代の第2共和制におけるイタリアの労働運動の組織的課題について、三大労組の取り組みを中心に検討する。
2. 三大労組の組織的現状
まず三大全国労組の組織的沿革を概観したい。
労働総同盟CGILは、イタリア最大の労組である(組合員数、約587万[2013年])。傘下の産別組織としては、自動車産業など機械金属労組FIOMが伝統的中心であったが、近年は公務員労組が組合員40万近くと最大になっている。ただし、以上は現役労働者組織の話である。実際には退職した年金受給者労組SPIが、CGIL全組合員の過半を占める最大組織と言える。
CGILの組合員数は、前年度と比較すると、微減(0.46%)であり、近年の緩やかな組織力衰退傾向は変わらない。地域的にみると、旧共産党や現民主党など左翼・中道左派政党が伝統的に強い中部の「赤い地帯」では、組合員数は微増を記録した。減少が目立つのは、北部・南部のうち、ロンバルディアやカンパーニアなど保守系・中道右派勢力が強い地域である。したがって、サービスの充実などを通じた組合組織維持・拡大策は、伝統的に労組が強い地域では一定の効果を発揮しているものの、それ以外の地域では成功を収めていないと評価できる。
勤労者組合同盟CISLは、組合員数第2位(437万[2013年])である。産別組織では、年金受給者組合や、公務員労組CISL-FP、建設労組FILCAが大きい。さらに、伝統的に教育政策を重視するカトリック系勢力として、教員組合が強いのも特徴である。 地域的には、トレンティーノ=アルト・アディジェなどカトリックが強いごく一部の地域を除いて、全体的に微減傾向である。第1共和制時代には有利に働いた政権与党との関係が消失したのは打撃であった。ただし、CISLは移民や外国在住者の組織化など地道な組織力の補完策を行ってきたことも特筆すべきである。
労働連合UILは、組合員数第3位(222万[2013年])と、規模では一歩後退した組織である。産別では、年金受給者組織の比率は他より低い。組合員数としては、前年度と比較すると現状維持(2013年)である。