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6:韓国労働組合による 組織転換の現状とその課題<2/2>

3. 労働運動が韓国社会に与える影響

上述したような労働組合の動きもあって、韓国においては、日本とは異なる二つの動きが目立つように なった(安 2013a: 第3章参照)。

第一に、労働運動と市民運動の提携が行われ、 労働運動ネットワークと福祉運動ネットワークの結合が見られることである。例えば、労働組合は、雇用安 定を重視し、社会福祉への関心は低かったが、 2006年から無償医療・無償給食の実現を主張し、 福祉の充実化に積極的に取り組むようになった。ま た、市民団体においても変化が見られる。以前民主労総が掲げた非正規労働の原則禁止(入口規制) については、実現可能性は低いという理由で市民 団体と民主労総の間に意見の相違が見られたが、 現在は入口規制に対する合意が形成されている。 両者の間に、福祉国家というビジョンが提示され、そ れを実現するためには、労働市場の二重構造の是正と社会権の確立が必要であるということが共有されつつあるからである。このように過去よりも両者の提携が強くなっているといえよう。

第二に、労働運動と福祉運動のネットワークが制度化されていることである。かつて労働運動と福祉 運動の提携は、幹部の個人的ネットワークに依存するところが多かったが、近年各団体の間に、政策協約を結び、提携の方向性と政策内容が具体化され ている。2011年に、労働組合を含み、405団体が主体となって、「福祉国家建設円卓会議」が設立され、 「普遍的社会保障」と「非正規労働の減縮と差別 禁止」などが重要な課題として取り上げられた。

こうした変化は、各政党の立場を変化させ、政党 の対立軸自体も動かした。韓国においては、左派政党はほとんど議席を持たず、保守的政党システムが 形成されていた。そのため、与党と主要な野党との政策的違いはさほど見られず、福祉や配分よりも成 長が優先されてきた(崔 2012)。しかし、2011年からは、左派政党だけではなく、中道派政党も福祉国家への転換と非正規労働の撤廃を掲げるようになった(安 2013b)。2011年の国会選挙を控えて、 中道派政党である民主統合党は、初めて民主労総と政策協約を結ぶようになり、その協約には労働問題解決と社会民主化実現のための政策協議会を設置することと、普遍的福祉の実現などが含まれた。また、上述した「福祉国家建設円卓会議」も民主統合党と政策協約を結び、非正規労働の減縮と社会保障制度の充実化、大企業に対する規制強化などに合意した。これに対して、保守政党であるハンナラ党は、党名をセヌリ党に変え、社会保障の充実化と非正規労働の待遇改善を目玉政策として掲げた。

4. 提携戦略の困難さと今後の課題

上述した変化の中で行われた2012年4月の国会 議員選挙と同年12月の大統領選挙では、保守政党 − 28 − のセヌリ党が勝利することになった。国会議員選挙 では、比例区で民主統合党が36.5%、統合進歩党 が10.3%の票を得て、セヌリ党の42.8%を上回ったも のの、セヌリ党が小選挙区を押さえ、300議席数内 152議席を獲得した。また大統領選挙では左派政 党の譲歩によって、民主統合党はセヌリ党との一騎 討ちの対決で臨んだものの、民主統合党の候補は 48.02%の得票にとどまり、約3%の差で敗北した。 両選挙ともに福祉や雇用安定が主な争点になった にもかかわらず、保守政党が勝利する結果となった のである。

この結果は、各政党に大きな影響を与えた。民主 統合党では、敗北の理由は党が「左」に寄りすぎた ため、中間層の離脱を招いたとされ、党の綱領や指 導部が交代した。また、統合進歩党は、国会議員選 挙での候補者公認の手続きに関する不法行為が 発覚し、それをめぐる党内の対立が激しくなった。結 局のところ、統合進歩党は割れ、政党支持率が低下 し、左派政党の存在感は極めて薄くなった。このよう に左派政党と中道派政党が低迷する中で、セヌリ党 は選挙での公約の見直しを図ろうとし、党内では社 会保障の充実化や財閥に対する規制強化を柔軟 に進めるべきという声が強くなった。

このことは、労働組合にとって選挙での協力が労 働組合の影響力を増すための手段になるものの、そ の限界も明らかであることを示している。労働組合は、選挙での協力によって自分が望む政策を争点化することはできたものの、それが政策の実現までを 保障するわけではない。この限界については、仮に民主統合党が選挙で勝利したとしても同じことがい える。民主統合党が民主労総と政策協力を結んだ とは言え、党内の保守勢力は依然として存在する。 民主統合党の変化は、選挙敗北をきっかけに党内 の保守勢力の巻き返しによって行われたものであ り、これは、民主統合党が政権政党になった場合にも、支持率の低下などを理由に起こり得ることであ る。つまり、異なる勢力の間の提携が、その時の情勢に基づく政策課題ごとの協力に止まった場合には、 失敗する可能性が高いことが示されている。

このような教訓を生かすためには、労働組合と政党の関係は流動的で短期的利益を志向するもので はなく、国家ビジョンを共有することが重要であろう。

そのためには、進行中である韓国の「産業別労働組合への転換」という実験が定着されるべきであろ う。韓国において一部の労働組合の反発によって、 産業別労働組合からの脱退や産業別労働組合の集権度の低下が見られ、依然として非正規労働者と中小企業の労働者の排除という問題も解消され ていない。このような状況では、労働組合は正規労働者の雇用保障などの短期的な利益にこだわるこ とになり、長期的な展望に立って労働運動を展開することが困難となる。この結果、労働組合は社会的に孤立してしまい、政党も労働組合と距離をとろうとする。労働組合が内部の亀裂を調整し、労働組合の社会的存在意義を高めるためには、企業別労働組合の構造を改善すべきであり、産業別労働組合を定着させる必要がある。

また、労働組合が国会で影響力を増すためには、 左派政党の存在が不可欠である。韓国の左派政党は多くの議席を獲得できなかったものの、国会議員選の比例区では10%程度の支持を得ていた。その ため、民主統合党は保守党のセヌリ党に勝つためには統合進歩党の支持を抱え込む必要があった。統合進歩党の協力なしでは、民主統合党が小選挙区や大統領選では勝ち目がなかったため、民主統合 党が統合進歩党の政策に接近することになってい たのである。しかし、統合進歩党の分裂やその後の低迷が生じたため、民主党統合にとっては左派政党の協力にこだわるインセンティブはなくなり、左派政党と合意した政策の放棄も容易になった。これは、 労働組合の政治的影響力の低下を意味するものである。

2012年の韓国の国会議員選挙と大統領選挙は、労働組合にとって敗北という結果で幕を閉じたが、労働組合に問われるのは、選挙の勝敗ではな く、今後いかに韓国労働運動の転換を継続していく かであろう。

参照文献
安周永(2013a)『日韓企業主義的雇用政策の分 岐―権力資源動員論からみた労働組合の戦略』 ミネルヴァ書房。
安周永(2013b)「韓国における政治的対立軸の変 化―2012年大統領選結果を受けて」『労働法 律旬報』1786号、42-49頁。
崔章集、磯崎典世・出水薫・金洪楹・浅羽祐樹・ 文京洙訳(2012)『民主化以後の韓国民主主義 ―起源と危機』岩波書店。
雇用労働部(2010)『2010年全国労働組合組織 現況』雇用労働部。

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