(公社)国際経済労働研究所 会長 古賀 伸明
ロシアが国際法を無視してウクライナに侵略し、2月で1年が経過した。
深刻な人道危機に発展し、戦後世界が尊重してきた普遍的価値を踏みにじった。国際社会はこの蛮行を止めるため、結束を一段と固める必要がある。しかし、国際社会の要である国連が今、存在意義を問われている。
国連は1945年10月、第二次世界大戦直後に戦勝国の米・英・ソ連、そして中・仏を加えて立ち上げられた。これらの5カ国が世界秩序を支えることを想定していたが、その前提は完全に崩れた。
ロシアのウクライナ侵攻を受け、国連・安全保障理事会は昨年2月25日に緊急会合を開いた。しかし、制裁はおろか非難決議すら採択できなかった。常任理事国の米・英・仏・中・露は、決議への拒否権を持っているからだ。国際的な平和と安全に責任を持ち続ける常任理事国としての役割の放棄である。
また、北朝鮮は2022年、数十発の過去最多のミサイル発射を行った。弾道ミサイルの発射は国連決議の違反だ。だが中・露の抵抗により、安保理は22年、非難決議も採択していない。このように、今の安保理体制がもう限界にあることは明らかだ。
国連総会・緊急特別会合の決議は採択されたが、この決議には法的拘束力はない。安保理に象徴される国連の機能不全が続けば、国連や傘下の国際機関に対する不信感がさらに高まる。
もちろん安保理の課題は今に始まったことではなく、改革には多くの困難があるが、これ以上現状を放置できない。国際法や国際裁判所の判決を尊重し、法の支配を維持する重要性が、今ほど問われている時はないからだ。
国連不要論もあるが、多様な国連機能に目を向ける必要がある。人道支援、地球温暖化や感染症対策、難民支援、食糧支援、SDGs(持続可能な開発目標)など世界が抱える多くの問題を共有し、解決のための行動や規範を定めるために、国連の機関が重要な役割を担っている。国連の代わりの機関を模索することは得策ではなく、国連改革を推進していく必要がある。
この第二次世界大戦後の国際秩序を揺るがすウクライナ危機を、改革の契機としなければならない。
最善は常任理事国の拒否権に、一定の制限を設けることだ。また、常任理事メンバーを増やすのもひとつの方法だ。しかし、これらはいずれも国連憲章を変更しなければならない。憲章の改定には総会の2/3と、全ての常任理事国の賛成が必要であり、実現は極めて困難だ。なぜなら中・露だけでなく、米・英・仏も本音は拒否権を手放したくないからだ。現に日本は過去にドイツ、インド、ブラジルなどとともに、常任・非常任理事国を増やすなどの構想を立てたが実現していない。
安保理が機能不全を起こした時に、事務総長や国連総会がもっと強力な機能を持つ手法、また拒否権は持たないが再任可能で任期が非常任理事国より長く、常任理事国と中間的な性格と定義される準常任理事国の創設など、これまで改革議論の俎上にあがったことも、改めて議論すべきである。
一方では、自由の価値や秩序を共有する国、例えばG7などをより強力な組織として変革をすることも検討に値することだ。
改革を長く提唱し、今年1月から安保理非常任理事国になった日本は、よりいっそう他国と連携して国連が本来の役割を果たすための改革の一翼を担う必要がある。日本は米・英・仏を巻き込み、戦略的かつ具体的な議論を提起してもらいたい。また、国際社会、特に中国も含めたアジア太平洋の国々との間で、率直な議論ができる強固な二国間関係を築いていくことも極めて重要である。
国際関係における武力行使を禁じる国連憲章を、安全保障理事会の常任理事国であるロシアが公然と破ったことの影響は大きい。
昨年4月には国連総会が、人権理事会におけるロシアの資格を停止、追放する決議を賛成多数で採択した。このロシアの侵略と蛮行を非難する国際社会の意思を、真摯に受けとめるべきである。
2023.3