(公社)国際経済労働研究所 会長 古賀 伸明
何となく 今年はよい事あるごとし 元旦の朝 晴れて風無し
昨年没後110年(1912年4月13日没)となった石川啄木の歌集「悲しき玩具」のなかの一首である。この歌集は啄木の没後に刊行された。
年末年始にかけて大豪雪により、車が長時間にわたって立往生するなど雪害が起こった地域の皆様に、お見舞いを申し上げる。私自身の新年は、「晴れて風無し」のごとく快晴でキリットとした空気の中で迎えることができた。
昨年はコロナ禍に加え、ウクライナ危機、日本の首相経験者が銃殺されるなど、これまで考えられなかったことが起きた年であった。啄木の「何となく 今年はよい事あるごとし」であることを願う。
恒例となった今年(2022年)の漢字は「戦」。ロシアのウクライナ侵攻、物価高など生活の中で起きている身近な「戦」い、サッカー・ワールドカップや冬季五輪での熱「戦」、村上宗隆選手や大谷翔平選手の挑「戦」などが理由の概要だそうだ。
私は他にも世相を把握するために、年末になると毎年注目している、いくつかの言葉がある。
オックスフォード英語辞典を出版する英国オックスフォード・ランゲージズは、2022年の今年の単語として「ゴブリン・モード」(goblin mode)を発表した。「恥ずかしげもなく自分勝手で、怠惰で、ずぼらで、貧欲な行動」を指すスラングだそうだ。ゴブリンとは、人間に悪さをしたりトラブルを引き起こしたりする、醜い姿の架空の生き物で、日本語では「小鬼」と訳されることが多いとのこと。著名人にまつわるスキャンダルに対してや、新型コロナウイルス対策の制限が緩和される中で、元の生活には戻りたくないと思う人たちが、この言葉をよく使うようになったのが選ばれた理由だ。
一方の雄であるケンブリッジ英語辞典が選んだ単語は「homer」。これには日替わり単語当てゲームの「Wordle」が大きく関係しており、ある日行われたゲームの回答が「homer」。アメリカ英語を知っている人であれば、すぐに「野球のホームラン」と回答できたが、アメリカ以外の国の人々は、そのことがわからず検索数が急増したため、今年の単語になったとか。
まだまだ日本では新型コロナウイルスの感染拡大が収まる様子はないが、今年の単語を見る限りでは、徐々にパンデミックの影響が薄れていっているのであろうか。
また、コリンズ英語辞典が発表した今年の単語は、危機的な状況や情勢不安などが長期にわたって続くことを表す「Permacrisis」だ。コロナ禍に加え、ロシアのウクライナ危機、気候変動、物価高などなど不安が常につきまとう一年であったことが如実に表れている。
加えて、国際政治学者のイアン・ブレマー氏の「世界10大リスク」は、世界や社会の現実をより自分のものとするうえで、極めて役に立つものである。
イアン・ブレマー氏は若い時から頭角を現し、1998年に28歳で世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社であるユーラシア・グループを設立した。
2012年には「『Gゼロ』後の世界」を出版し、有効で確固たるリーダーシップを持った国家不在の現状をGゼロの時代と呼び、これからを展望しながら現在のグローバル世界の現状を群を抜いた洞察力で語っている。
今年の「世界10大リスク」は、1月3日に発表され、①ならず者国家ロシア②最大化する習権力③テクノロジーによる社会混乱となっている。興味のある方は、④以下もネットなどで検索願いたい。
今年はどんな年になるのか?誰もが年の初めに、そう問いかけたであろう。どんな年になるのか、おそらく誰もわからない。しかし、せめて「漫然と迎える」年ではなく、「主体性を持って新たなものを築く」年にしたいものだ。
2023.2