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巻頭言 労働者協同組合法

(公社)国際経済労働研究所 会長 古賀 伸明

昨年(2022年)10月に、労働者協同組合法が施行された。


ちょうど10年前の12年は、国連が定めた「国際協同組合年」であった。その背景には、グローバル経済の進展と市場原理主義のもとで世界的に格差と貧困が拡大している中、協同組合が健全性を発揮していることが挙げられた。


協同組合は19世紀半ばの英国に始まる。産業革命で大規模生産が可能になった一方、労働者は低賃金や長時間労働を強いられた。こうした境遇を変えようと、英国中部の町で結成されたのがロッチデール公正先駆者組合だ。労働者28人が、1人1ポンドを積み立てて自分たちの店を開いた。小麦粉、バター、砂糖、オートミール、ろうそくなどを販売、余った利益は分配したという。


日本では当初産業組合と呼ばれ、1900年に法制化、21年には現在のコープこうべの前身となる、神戸購買組合と灘購買組合が設立された。48年産業組合法にかわり、消費生活協同組合法(生協法)が制定された。


協同組合は働く人が自ら出資し、1人1票の議決権を有しながら、組織運営・事業のあり方を対話によって共同決定し、みんなで事業を共に担う非営利の組織である。こくみん共済COOPや労働金庫も、もちろん協同組合である。


日本では生協にとっての生協法のように、農協や漁協も個別の法律が設立の根拠となっている。協同組合基本法のような協同組合全体を包含する法律が必要だと考えるが、実現していない。


協同組合のひとつである労働者協同組合を規定する法律はなかったが、関係者のご努力で2020年12月に労働者協同組合法が成立し、昨年10月に施行された。


日本の労働者協同組合は1970年代の失業者自身による仕事づくりから始められた。主な活動領域は、自治体との連携による環境保全、物流倉庫業務から始まり、21世紀に入りケアの領域(介護、子育て、若者、障害者、困窮者支援)などに拡大し、公共サービス(公共施設の指定管理者等)や一次産業(小規模な農業や林業)、福祉と環境を連携させる森の幼稚園や農福連携など事業は多岐にわたる。


その法律の第一条の目的では「多様な就労の機会を創出することを促進するとともに、当該組織を通じて地域における多様な事業が行われることを促進し、持って持続可能である地域社会の実現に資する」としている。


地域共同体の維持、過疎、貧困、介護、少子高齢化や環境問題など地域は課題山積である。ただ、そうした問題を解決する事業は利益につながりにくく、営利目的の会社組織はなかなか参入しない。これからの地域課題の解決や地域づくりに重要な役割を果たすことを期待されるのが労働者協同組合だ。自治体も労働者協同組合に期待する。セミナーを開いて創設を支援したり、相談窓口を設けたりしている自治体も多い。


この法律は、労働とは何かの本質的な問題を提起したとも言える。それに関連してこれからの経済、民主主義やコミュニティのあり方などについて考える機会ともなった。


働くことの尊厳や誇りは、働く仲間と一緒に仕事をやり遂げるとともに、それを享受する人たちとの信頼や相互感謝の中で実感となる。また、雇う・雇われる関係ではないので、個人がのぞむ働き方を実現しやすい。引きこもりで外出が難しい人も、自ら組織を起こして働いている例もある。


暮らしと仕事、仕事と地域を結び、誰もが当事者で主人公となり、地域の課題に向き合う。提供・利用の関係を超えて、働く人、利用者、地域の人が共同の関係を築くことで、分断や孤立を超えて、崩れかけている地域コミュニティが再生する。


一人ひとりの意見を尊重する民主的な運営には時間がかかり、非効率かもしれない。しかし、丁寧な合意形成で決めた事柄には、全員の納得感があり事業の推進力となる。話し合いに不可欠な他者を尊重しようとする姿勢こそが、民主主義の原点といえる。


この法律の成立に向けて、少しだけ関わった者として、全国各地域での多くの労働者協同組合の設立を願ってやまない。

2023.6

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