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巻頭言 ついに過去最低となった「ジェンダーギャップ指数」

(公社)国際経済労働研究所 会長 古賀 伸明

男女共同参画社会とは「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」と男女共同参画社会基本法第2条にある。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の17あるゴールの1つでもある。


世界経済フォーラム(WEF)が今年6月に発表した日本のジェンダーギャップ指数は146ヵ国中125位で、前年の146ヵ国中116位からダウンした。2006年の第1回は115ヵ国中80位だった。その後もスコアそのものはほぼ横ばいであるが、順位は低下傾向が続き、今年ついに公開開始以来過去最低となった。他国が格差解消の努力を続ける中で、日本はその結果が表れない状況である。


経済分野の順位は123位で、前年(121位)から足踏み。あらゆる項目に課題があるが、特に女性管理職比率の低さは、世界的にみても下位に位置している。政治分野の順位は146ヵ国中138位(前年139位)と最下位クラスである。


今年3月に発表された世界銀行の経済的な権利をめぐる男女の格差を調査した報告書では、日本は190ヵ国・地域の中で104位。OECD(経済協力開発機構)加盟国38ヵ国の中では最下位となった。


何故、ジェンダー平等か?その問いに対しては、今の時代をどう見るかということが重要である。人権、平等の尊重・個人の尊厳を守り、誰もが働き生きやすい社会をつくることはもちろんのこと、これまで当たり前だと思っていたことが既に当たり前ではなくなってきている。


日本をみると、経済や社会が成熟化したことにより業界の垣根は無くなり、デジタル技術の進化によって経済を支えるものが大きく変わっている。同じモノやサービスを如何に効率的に作るのかではなく、何を作るのかが問われる時代となった。いままで成功してきた同質性の強い旧来の日本型組織からは、革新的なアイデアは生まれにくい。


新しい何かを生み出すのはいつの時代もイノベーションしかない。そしてイノベーションを生み出すのは人である。その横ぐしとなるのが多様性だ。これまでの枠組みや既成の価値観にとらわれない多様な視点で物事をとらえ直して、新しいアイデアや知恵を生んでいくことが求められている。異なる考え方や価値観を持った人同士が議論し、トライ&エラーを繰り返す中で新しいビジネスモデルをつくっていく。多様な個性を持った人たちが入り混じる組織こそ、新しい可能性が広がる。


そのためには、「男性が稼ぎ主・女性は専業主婦」というモデルから脱却する必要がある。日本でも1990年代からサービス経済化が拡大し、女性の社会進出が進んだが、それに対応する価値観の転換を図った仕組み・制度づくりができていない。まず、未だに「働き方モデル」のスタンダードが「男性・正社員・長時間労働」になっていることを是正し、固定的性別役割分担意識を転換しなければならない。


日本の女性の政治参加は国際的にみて遅れている。参議院は女性の割合は約26%だが、衆議院では約10%だ。列国議会同盟(主権国家の議会による国際組織・加盟国166ヵ国)の21年1月のまとめでは、世界の下院または1院制の議会で、女性が占める割合は平均約26%である。


海外の118の国・地域で導入されているクオータ制が効果をあげている。日本も「政治分野における男女共同参画推進法」の施行から5年が経過するが、その効果は限定的だ。男女とも子育てや介護などと議員活動を両立できる仕組みつくりはもちろんのこと、クオータ制や比例代表の名簿を男女半数とする制度、女性候補者の比率に応じた政党交付金の配分など、具体的な議論を始める時期が既にきている。

2023.8

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