(公社)国際経済労働研究所 会長 古賀 伸明
日本社会の将来の姿を予測する一つの指標に、国立社会保障・人口問題研究所が5年に一度公表する「将来推計人口」がある。前回公表が2017年で22年が次の公表時期であったが、コロナ禍で遅れ今年4月に公表された。
将来推計人口は5年ごとの国勢調査を元に、50年後までの人口を推定する。人口は出生率や平均寿命、外国人を含む出入国の状況によって変動して行くが、近年の動向を未来に投影する形で仮定をおき将来像を提示している。未来を見据えながら、政策や制度の見直しにつなげる必要があるし、公的年金の長期財政見通しなどにも使われる。
今回の公表結果では、20年の国勢調査で1億2615万人であった総人口は、50年後の70年には現在の7割まで減少して約8700万人になるとみている。
1億人を下回るのは56年で、6年前の前回推計に比べて3年遅くなっている。その背景にあるのは、平均寿命の伸びと日本で暮らす外国人の増加である。この推計で人口減少のトレンドが改善したと受けとめるのは、あまりにも楽観的過ぎる。
外国人増加の要素を除くと、今回の推計はむしろ厳しさを増している。合計特殊出生率は、前回推計(1.44)を下回る1.36で日本人女性に限ると1.29まで下がり少子化は加速する。65歳以上よりもそれ以下の減少が進み、人口規模が縮小する中でも、高齢化率は上昇を続け約4割を占めると試算した。
特に影響が大きいのが外国人の増加で、コロナ前と同じ年約16万人ペースで増えると見込み、70年には20年時点(2.2%)の3.4倍の約940万人にまで増え、全人口の10.8%の推計になっている。
確かに、外国人の受け入れ拡大も選択肢の一つだ。厚労省の試算によると、医療・福祉分野では40年時点で96万人が不足する。物流や飲食・小売といったサービス業では、既に外国人労働者が重要な戦力だ。
しかし、実際にこれだけ増えるのかは疑問であり、希望的観測との印象も否めない。先進国の多くは人口減少や少子化に直面する国が増え、これからは外国人材の獲得競争が一段と激しくなる。外国人に選ばれる国であるためには、海外に見劣りしない賃金水準をはじめとした労働条件や就労環境の整備が求められる。
もちろん、受け入れに当たっては就労のみならず、教育や住宅といった生活支援体制、社会保障など地域で安心して暮らせる環境を整えるために、共生社会を見据えた幅広い国民的な議論が必要だ。
職場や教育現場で外国人とともに過ごすことが日常的になる。外国人を今後どのくらい受け入れるのか、日本社会の中でどう位置づけるのか、もっと正面から議論しなければならない。移民の受け入れ議論も避けて通れない。
今回の推計が示したのは、日本の人口減少は着実に進むことが、ほぼ確定した未来である。出生率が長期的に2.20まで上がる最高位のシナリオでも、人口が反転増加するのは、70年よりも後になる。しかも、高齢化と少子化が同時に加速する社会であり、15歳から64歳までの生産年齢人口が大幅に減少し、推計によると、40年には現状より2割も減り社会・経済の支え手が不足する。
こうした現実に向き合い、少子化対策や高齢化支援を含む社会保障制度改革はもちろん、国と自治体の行政サービスや財政、税制、道路・橋・電線・公共交通機関などインフラのあり方、大都市圏と地方圏との関係など、中・長期の日本社会のあり方を描き直す必要がある。
一方では、超高齢・人口減少社会の負の側面ばかり見るのではなく、経験豊富で元気な高齢者が活躍する機会でもある。積極的に社会に参画することにより、支え手として日本社会を活性化させる契機になる。
いわば上手く縮みながら社会機能を維持して、規模を求めるより質を高める成熟した国にふさわしい、一人ひとりが生きる幸せを実感し豊かに暮らせる社会を目指すべきだろう。
2023.10