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巻頭言 人為的ミスをカバーする補完システムの構築を

(公社)国際経済労働研究所 会長 古賀 伸明

2024年は衝撃的な幕開けとなった。


元旦には最大震度7の地震が、能登半島を襲った。地震から2ヵ月以上が経過したが、被害の爪痕はいまも街の至る所に広がっている。改めて、亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈りするとともに、被災された皆さんにお見舞いを申し上げたい。


その翌日2日夕刻には国内最大の拠点空港である羽田空港の滑走路上で、着陸直後だった日本航空の旅客機と、離陸のため待機していた海上保安庁所属の航空機が衝突し、両機とも炎上した。滑走路上で燃え落ちる日航機の映像に、多くの人が衝撃を受け不安を感じたはずだ。


海保機の乗員6名のうち自力で脱出した機長を除く5人が死亡した。石川県能登半島地震の支援活動として、食料や水などの物資を積んで急遽被災地に向かうところだった。重要な任務の途中で職員の命が絶たれたのは、極めて痛ましい。


一方、日航機の機体は炎に包まれながら約1km滑走した。乗客と乗員379人は全員脱出し、負傷者は出たものの命に別条はなかった。日頃の訓練で身につけた乗員の適切な誘導と、乗客の冷静沈着な行動が避難を成功させた。アナウンス機器が使用不能になる中、客室乗務員が安全な出口を見極め、メガホンと肉声で的確に誘導したという。海外メディアは「全員脱出は奇跡」「お手本のような乗務員の対応」と報じた。今回の誘導や乗客の動きなどを検証し、今後の訓練や乗客への対応に生かすべきだろう。


日本の民間航空史上、滑走路で飛行機同士が衝突し、これほど激しく炎上・大破した事故は例がない。双方の機体は直後に炎に包まれ、避難が遅れれば、さらなる大惨事になってもおかしくない状況だった。


東京の空の玄関口である羽田空港は年間約6000万人が利用し、発着する航空機の数は1日平均約1200本と国内で最も多い。さらに事故が起きた2日は、正月休みのUターン客向けに臨時便も飛んでおり、通常よりも混雑していたという。


そのような状況のなかで、管制官の負担にも注視することが重要だ。全国の人数が2000人前後で推移する中、19年に扱った航空機の数は04年の1.5倍に上るという。羽田空港では訪日外国人の増加などに伴い、国際線の発着枠が拡大されてきた。ピーク時の離着陸は1時間で90回と世界有数な過密空港だ。業務も複雑になった管制官たちは緊張の中で安全運航に努めているのが実情だろう。この過密運行の影響についても検証が必要だ。


国土交通省は管制官と両機などとの交信記録を公表し、運輸安全委員会の調査などにより、事故の状況が徐々に明らかになっている。管制官は、海上保安庁の航空機に滑走路手前での待機を指示したが、海保機は滑走路への侵入を許可されたと誤認。また、滑走路への誤進入があれば、モニター画面の色が変わり注意喚起する機能があり、海保機は滑走路上に約40秒間停止していたが、着陸しようとした日本航空機も管制官も海保機に気づかなかった。管制官は海保機と交信してから事故発生までの約2分間、事故機とは別の2機とやり取りをしていたと報道されている。


事故は人為的ミスが重なって起きた可能性が高まっている。国交省は運輸安全委員会の調査結果を待たずにさらなる再発防止策を打ち出すため、外部有識者らによる事故対策検討委員会で議論を始めた。


ヒューマンエラーは、どれほど注意しても完全に撲滅することは困難で不可能に近い。そのことを前提に些細なことでも軽視することなく、重大な事故につながらないよう、人為的ミスをカバーする二重三重のハード面・ソフト面から補完システムを構築せねばならない。事故が起きれば、惨事につながる航空機の場合はなおさらだ。ミスが重なったとしても、最悪の事態を回避する為の重層的な仕組みの強化が求められる。


ヒューマンエラーは今回の事故に限らず、私たちの身の回りでも日常茶飯事のように起きていることを自覚しておく必要がある。

2024.3

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