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巻頭言 軍事クーデターから3年 和平実現へのプロセスを

(公社)国際経済労働研究所 会長 古賀 伸明

連合は外務省の協力もいただき、1981年から在外日本国大使館に、組合役員を中心に外交官として派遣している。現在も8ヵ国に送り出しており、累計では70人を超える。


各国の大使館ごとにさまざまな任務が与えられており、政府開発援助(ODA)に携わったり、広報・文化活動に尽力したり、環境問題や経済分析など幅広く活動している。それらの任務をまっとうする中で、より一層視野を広げ、知見を深め人脈を拡大し、一回りも二回りも大きくなって帰国する姿を頼もしく迎えたことを思い出す。


そんな派遣者の一人が、先日任務を終え帰国報告会を開催したので、オンラインで視聴した。派遣先はミャンマー。しかも期間は、2020年から3年7ヵ月である。この期間は、新型コロナウイルスの感染拡大、20年11月に5年に1度の総選挙、そして21年2月1日の国軍のクーデターという大変な時期とも重なる。


報告の最後に発した「派遣中、首都には一度も行っていない」という言葉が印象的だった。数々の貴重な経験を生かして、ますます活躍してほしいものだ。


ミャンマーでは国軍が前年の総選挙に不正があったと主張してクーデターを起こし、3年数ヵ月が経過した。選挙に勝利した国民民主連盟(NLD)は解散を命じられ、民主化運動の指導者のアウン・サン・スー・チー氏は拘束され、計33年の刑期の有罪判決を受けた。国連推計では国土の3分の2以上が紛争状態とされ、国軍は抗議する市民の弾圧を強め、人権団体によれば約4500人を殺害し、今なお2万人近くが拘束されているとみられる。


国連は戦闘の激化で、国内避難民は約260万人にのぼると発表した。避難民は国境地帯のキャンプで劣悪な生活を強いられている。国際支援団体はほとんど活動できず、水や食料、医薬品の不足は深刻だという。多くの命が失われ犠牲者は増加し、国土荒廃が進む。国民生活は困窮し、人道危機は深刻化していく。


そのような状況の中で、国軍は4月下旬から徴兵制を開始した。18~35歳の男性と18~27歳の女性で、対象者は男女約1400万人。徴兵を拒否すれば、最長で懲役5年の刑を科せられる。この唐突な強行策の背景には、国軍が疲弊している状態がある。


強権支配を続ける国軍と、民主派と少数民族が連携する反軍勢力との武力衝突が激しさを増す中、国軍が劣勢となり多数の兵士が死傷し、少数民族側に投降した部隊もあるという。国軍はこれまで数百の拠点を失い、米国のシンクタンクは30万~40万人とされる国軍勢力が半減したと分析している。徴兵制の導入は、志願者だけでは兵力を補えなくなったためだ。


国軍が今年2月に徴兵開始を発表すると、徴兵を逃れようとした国民が旅券の申請窓口に殺到したり、地元を離れて別の町で身を隠したりする動きが広がっていると報道された。徴兵されれば、民主派や少数民族との戦闘の最前線に投入される可能性が高い。社会に混乱が広がっているのは当然だろう。兵力が補充されれば、双方の犠牲がさらに増えることが懸念され、内戦の危機を高める。国軍は徴兵制を撤回すべきだ。


軍事クーデターから3年余が過ぎても、容易に出口が見つからない状況が続き、深まる人道危機への対応を急ぐべきだ。クーデターは民主主義を否定する暴挙であり、民主政権を武力で倒した軍政に政権を担う大義がないのは言うまでもない。自国民同士が銃を向け合う状況をつくり出すことは許されない。


国連安全保障理事会の決議に従って、まずは軍が暴力を停止することが不可欠だ。拘束しているアウン・サン・スー・チー氏を解放し、民主主義の回復を前提とした対話を含めた民主化へのプロセスに入るべきだ。


事態の打開へ向けて鍵を握るのは、ASEAN(東南アジア諸国連合)の動きだ。今こそ、国際社会は軍事政権への圧力を強め、和平実現に向けたASEANの取り組みを後押しすることが重要だ。日本は民主主義国としてアジアの安定に役割と責任を果たすべき立場にある。ミャンマーの危機脱却に向けたリーダーシップを発揮することが求められている。

2024.7

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