労働調査運動――研究所に着任した時、この言葉(概念)を聞いて衝撃を受けた。私が学生の頃、心理学は実験の被験者も質問紙調査の回答者も大学生であることが多く、所詮「学生の心理学」だと揶揄されるようなところがあった。だから、大学生以外の社会人のデータなんてきわめて貴重なことだった。ON・I・ON2の前身:すなわちON・I・ON(第28回共同調査)を新人の私が任されたとき、社会心理学者仲間に「社会人のデータが取れるぞ」と呼びかけた。それだけでみんな関心を持ってくれた。それだけ魅力的だったのである。
その後も多くの研究者がデータを求めて集まってくれたけれど、それは、あくまでも組合員は回答者(データ)だった。だから、この尺度は20項目必要とか、そういう話になる。研究としてはそうだろうけれど、その研究のためだけに何十万人に回答してもらう、仮に50万人×1分(20問×3秒)として8000時間以上の時間。そこまで必要なことだろうか?研究所のスタッフはわかるが、大学教員を中心とした非常勤の研究者にはわからない。研究用の項目を共同調査に持ち込もうとする。研究用のデータなら数百人で十分。それなら、仲間である労働組合に主旨を理解してもらえれば予備調査だって可能だ。
そう、研究の対象ではなく、ともに調査研究する仲間。心理学者にとって人は被験者や回答者や研究対象だが、そうではなく、研究や調査をともに行う仲間。そこがすごい。そんな世界があるなんて、と思ったのを覚えている。今なら当然のことだが、当時はまったく研究観が違った。
専務理事/統括研究員 八木 隆一郎