意識調査を実施する研究者は常にこの言葉に悩まされる。私自身、研究所の業務では何度も組合の調査担当者からこのことを相談されてきたし、現在の本務校である大学での卒論指導や、自分自身の研究でも同じ問題に直面している。いまやコスパならぬタイパ(タイムパフォーマンス;時間対効果)が重視される時代である。小説を要約で読み、映画を倍速で観るような中で、質問項目が多い調査はますます回答してもらいにくくなっている。
私自身も長い調査に回答するのは大嫌いなので、共同調査ON・I・ON2では項目を少しでも減らすための改訂作業を続けてきたつもりである。意識調査では、調べたいことをできるだけ網羅的に、かつ正確に測定する必要がある。そのためには1つの概念を最低でも3~5項目で測定することが一般的に望ましいとされており、自ずと質問項目は増えてしまう。ON・I・ON2は扱う概念が非常に多いため、当初から1つの概念を1、2項目で測定することをしていたが、そのようなやり方は学問の世界では完全に邪道扱いされてきた。しかし実は最近、徐々にそうした手法が学術研究でも用いられるようになってきている。たとえば「ビッグファイブ」と呼ばれる代表的な性格テストは、かつては240項目で測定するのが標準的であったが、徐々に短縮化が進み、現在はたった10項目で測定できる「超」短縮版が開発され、非常に多くの研究で用いられている。時代がようやく研究所に追いついてきたようである。
しかし今もなお、ON・I・ON2は項目数がとても多い調査だという声が聞こえる。そのとおりだと思う。組合員の方々が多忙な業務の中これだけの数の項目に回答してくれるのは、それ自体が組合に対する関与意識の高さの表れともいえ、たいへんありがたいことである。ただし研究者としてはそこに甘えることなく、負担の少ない調査方法を今後も考えていかねばならない。
関西大学社会学部教授/国際経済労働研究所理事・研究員 阿部 晋吾