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所員コラム 夢の功罪 (吉浜 智美)

若い人に夢を持つべきかと聞かれたら、正直、答えに窮する。


自分自身、学生時代から「大学で国際関係論を勉強して国連職員になる」ことしか考えていなかった。その唯一の「正解」に向かって生きていた。無目的に大学に来る人をやや冷ややかな目で見ていたほどである。


大きな夢があるのは良いことだ。夢があることで自分の持つ以上の力が出ることがある。中学時代に病気で社会生活が難しくなったが、「死んでも国連職員になる」つもりで学校を卒業することができた。一方で、あまりに非現実的なその夢は視野を狭くし、毎日唱える呪文以外の何物でもなかった。そんな煩悩の塊に突き付けられたのが、世の中の人がどんな思いで働いているのかを調べるON・I・ON2。「数字の裏に人の命があることを忘れるな」とは経労研の教え。社会人とは何かを、この場所で一から教えてもらった。


30歳で経労研を退職、英国留学した。夢に幾度も助けられた身として、夢を捨てたら自分が壊れるような気がした。そこで待っていたのは「天才」たち。物知りで、自分の意見を明確に表明し、尊敬できる人間性をもち、音楽や酒や恋愛に無邪気に笑う愛すべき「天才」たちが、国連やEUに就職していった。「こういう人が行くところだ、国連は」。挫折と同時に頭をよぎったのは、自分の仕事を全うするのみの欧米型ではなく、人と自分の仕事に明確な境界線がない日本的な働き方。経労研で工場や店舗の一組合員に思いを馳せる仕事をしていたことを思い出し、今に至る。現在、国内外の子どもたちに生きる意味を見出してもらうために調査運動を拡大すべく、新しい事業を企画している。


夢が直線で叶わないのは悔しい。でも流れ着いた先に与えられた役割があるというのも人生の醍醐味。一ついえることは、正解は自分が決めるということ。私には国連職員より経労研が正解だった。そして、どうやらまだ夢は終わっていないようだと信じたい。

研究員 吉浜 智美

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