中学生のころ突如「ロックをやりたい」と思い立って以来、ロックにつかず離れずな人生を続けている。そんな私が「推し」などという一言では表現しきれぬほど欽慕してきたBUCK-TICKというバンドで、長年ボーカルを務めた櫻井敦司が、10月 19日、この世を去った。ステージで体調不良を訴え、救急搬送先でその日のうちに逝去したというあまりにも唐突な訃報に、大勢のファンが言葉を失った。
そんな中にあって、同バンドのリーダー今井寿がSNSに投稿した一文が、私にはこの上ない心の支えとなった。いわく「ま、でもね。続けるからね♪(ピースサインの絵文字)大丈夫」。
メディアはこれを「活動継続の意志」と報じたが、実際はそんなに軽い発言でもないし、同時にそんなに重い発言でもない…と、勝手に今井をロールモデルとして研究者の道を歩んできた私は思う。軽い発言でもないというのは、活動云々よりもまず、ファンの動揺や不安をすべて引き受けるという覚悟の表明だからだ。そして重い発言でもないというのは、そんなこと考えるまでもなく何とかなる、という余裕を含んだ発言だからだ。その背後には、これまでも困難を乗り越えてきた自分たちへの自信と、スタッフら関係者への信頼があるだろう。
研究機関で曲がりなりにも専門家の看板を掲げて働くということは、しばしば「大丈夫」かどうか――あの調査計画で「大丈夫」か、この分析で「大丈夫」か…――の判断を委ねられることを伴う。そこで、この覚悟と自信や信頼とのバランスが取れた「大丈夫」を伝えることができる――そんな専門家でありたい。こうした絶妙なバランスの上で紡がれるBUCK-TICKの近年の楽曲には、己の儚さを受け容れながらも、次世代にささやかな希望を語るような言葉が、顔を出すようになった。そんな言葉を届けてくれた美しくも可憐なボーカリストを偲びながら、悲嘆の底で、決意を新たにしている。
研究員 山本 耕平