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所員コラム 「仕事の楽しさ」の30年 (山下 京)

近年、働きがいに関して「ワーク・エンゲイジメント」(以下、WE)という概念が広まり、各種調査において多用されている。WEとは仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる(島津,2015)。


国際経済労働研究所では1989年の第28回共同調査から一貫して働きがいに関して研究を行っている。その中心となるのは「仕事の楽しさ」であり、これは実験社会心理学における内発的モティベーションの研究から生まれた測定尺度である。実は、当初「仕事の楽しさ」は学会や産業界、お堅い労働組合からそれほど受けがよかったわけではない。労働や仕事ということに対して「楽しい」という軽く浮ついた表現が相応しくないという批判さえあった。それから30年、働きがい改革の流れや人手不足感が増した日本社会では、特に若年層向けに「楽しい職場・仕事・会社」を取り上げる記事が日常的に見られるようになり「仕事の楽しさ」は一定の市民権を得た感がある。


「仕事の楽しさ」についてはWEとの関係を検討した結果、WEとほぼ同じ成分を測定していることが確認されている(山下,2022)。WEは、これまで産業・組織心理学において扱われてきた既存の概念(例えば、職務満足やジョブ・インボルブメントなど)を含んだ複合的な測定尺度であることが指摘されている。だからこそ便利なツールとして広まったといってもいいだろう。共同調査に含まれている働きがい項目はWEと同様の要素を個別に測定しており、流行りのWEを調査に取り入れたいという組合の要望に応えることも可能である。


失われた30年を経て人口減少や働き手の不足が懸念される日本社会において注目される「楽しさ」の存在。ようやく時代の方が「仕事の楽しさ」を中心に働きがい調査を続けてきた当研究所の主張に追いついてきたような気がしている。

主査研究員・近畿大学経営学部 山下 京

〈参考文献〉

島津明人(2015)ワーク・エンゲイジメントに着目した個人と組織の活性化 日本職業・災害医学会会誌,63 205-209。

山下京(2022)ワーク・エンゲイジメントと働きがいの関係:概念の検討と整理 Intʼ lecowk国際経済労働研究, 第77巻第7号 公益社団法人国際経済労働研究所、22-32。

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