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所員コラム 社会構築主義と計量研究の読み方 (尾﨑 俊也)

私は社会心理研究事業部に所属し、第30回共同調査(いわゆるON・I・ON2)に取り組んでいます。第30回共同調査だけではなく、弊所の調査研究の多くは、定量的データを用いた量的調査です。ただ、もともと博士号取得までの私の研究では、社会学理論の研究に馴染んできました。


身も蓋もないことを言えば、計量研究と質的研究あるいは理論研究の間には大河が流れていて、ふたつの方法論を往還する卓越した研究者は少なく、どちらかの方法論を重視するというのが現状かと思われます。


私がまだ大学院生だったころ没頭して読んだ理論に、シュッツとルックマンによる(Schütz, A. and T. Luckmann: 2003=2015)現象学的社会学があります。いわゆる社会構築主義の思想的源流のひとつといえます。80 年代後半から90 年代にかけて社会学や周辺領域で構築主義は、本質主義的に実態としての社会を捉えるのではなく、行為実践によって塗り替えられまた再生産される状況としての社会を把握する視覚を提示しました。私は大学院時代に、ジェンダーや家族をはじめとしてさまざまな社会現象を構築主義の眼差しでみる態度を身に着けました。実は関係ないようでいて第30回共同調査のような計量研究においても、構築主義は、数値もただ作り出された流動的な状況にすぎないという見方を与えてくれます。学術的にも世間一般でも数字で表されるデータが重視される近年だからこそ、数字を本質化せず、あるいは数字を真に受けてそれによって現実を作ってしまう(予言の自己成就)側面に配慮しながら第30 回共同調査に取り組んでいますし、協力していただいている労働組合の方へもそのような説明を尽くしています。

準研究員 尾﨑 俊也

〈参考文献〉

Schütz, A. and T. Luckmann, 2003, Strukturen der Lebenswelt, Konstanz: UVK Verlagsgesellschaft mbh.

(=2015,那須壽監訳『生活世界の構造』筑摩書房)

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