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Int'lecowk 2023年2月号(通巻1127号)特集概要

2023春闘方針

Contents

2023年春闘の課題

 日本総合研究所 副理事長 山田 久


〈インタビュー〉2023春季生活闘争方針

 日本労働組合総連合会 会長 芳野 友子 氏


〈インタビュー〉社会的運動としての春闘

 全国コミュニティ・ユニオン連合会 会長 鈴木 剛 氏

春季生活闘争(以下、春闘)は、労働組合の諸活動で中心的なものの一つである。その目的は賃金改善にとどまらず、労働者の生活保障や社会的課題の解決など、すべての働く仲間のための運動として展開されてきた。


2022春闘は続くコロナ禍とウクライナ問題などの影響が懸念されたが、労使交渉で「人への投資」や月例賃金を重視した結果、コロナ禍前の賃上げ水準まで回復した産業も多く見られた。コロナ禍4年目となる今年は、世界的なインフレ傾向など新たな環境の変化も生じ、物価上昇に賃金が追いつかない、企業も価格転嫁が進まないといった問題も起こっている。とくに日本社会では、長期のデフレの経験から物価や賃金が上がりにくいという意識が根強く、連合はこのデフレマインドからの脱却をめざし、今春闘の方針で28年ぶりに5%程度の賃上げ目標を掲げた。各産別組織でも大幅な賃上げに向けた動きが見られ、たとえばUAゼンセンは連合の目標を超える6%程度の引き上げ目標を掲げている。


また、コロナ禍でとくに大きな打撃を受けた産業でも今春闘では積極的なベア要求がみられ、私鉄総連では9,900円(前年の6倍超)、航空連合は過去最高となる6,000円以上を打ち出している。


一方、労働組合の組織率は2割を下回っており、組織化されていない労働者が大半である。また、非正規労働者や、曖昧な雇用で働く人々も増加している。このような労働者を取り巻く春闘はどのようになっているのであろうか。連合も「みんなの春闘』を掲げ、集団的労使関係を広げていく取り組みを進めているが、同時に未組織の労働者をつなぐような草の根の活動も重要だといえる。このような問題意識から、本号ではコミュニティユニオンも取り上げることとした。


本号の特集1は「2023年春闘の課題」と題し、山田久氏(日本総合研究所・副理事長)にご寄稿いただいた。日本の賃金が上がらない要因として、日本社会における「物価は上がらないもの」という標準的相場観があることを指摘する。パンデミックやウクライナ紛争を経て世界経済の構図が転換するなか、企業も経営スタイルをコスト削減から付加価値の創造・適正価格の実現へとシフトすべきだとしている。この標準的相場観を変え、値下げ・賃下げの悪循環を打破するためには「春闘の再建」が鍵であるとし、生産性に見合う持続的な賃上げ、成果主義と底上げを組み合わせた新たな成果配分のあり方の創造など具体的な方策を提言している。


特集2は、芳野友子氏(日本労働組合総連合会・会長)へのインタビューである。賃上げの方針は、物価上昇への対応という短期の視点のみならず、中期、長期の視点からも検討している。長期的な観点からは、今年の春闘を持続的に実質賃金を改善していくことのできる状況をつくりだす転換点とする、としている。このほか、中小企業の賃上げ実現に向けた「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配」をより強く打ち出していることなども今年の特徴といえる。また、ジェンダー平等に関しては、昨年2022春闘方針の冒頭の「闘争の意義とスタンス」で、連合の闘争方針では初めて、女性労働者の雇用の不安定さや男女間賃金格差について明記され、画期的な打ち出し方となった。今期もその流れを汲み、方針の中で男女間賃金格差に言及している。


特集3は、鈴木剛氏(全国コミュニティ・ユニオン連合会・会長)へのインタビューである。春闘方針は、①物価上昇を上回る賃上げの獲得、②ストライキ権の確立、③賃金・労働条件の底上げと雇用形態の格差是正、④ハラスメント対策、法令遵守、⑤長時間労働の是正とワークライフバランスの波及、⑥職場の基本である労働法制や平和憲法の改憲を許さない取り組みを進めること、⑦どこでも誰でも時給1500円以上の実現の7点を掲げている。また、春闘を「社会的な運動」と位置付け、「年越しコロナ・被害相談村」のように、会社側と十分な交渉ができない立場にある労働者を守る取り組みも春闘の時期におこなっており、それについても話をうかがった。このほか、昨今注目されているアマゾン配達ドライバーの組織化、社会的労働運動、今後の労働運動の方向性などについてもお話しいただいた。

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