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Int'lecowk 2023年3月号(通巻1128号)特集概要

国際政治の現状とこれから

Contents

国際政治理論と現代の国際関係 ―経済的相互依存と米中経済関係―
 大芝 亮(広島市立大学広島平和研究所所長・国際経済労働研究所理事)

ウクライナ戦争と21世紀国際政治の行方
 滝田 賢治(中央大学名誉教授)

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻から、1年以上が経過した。世界の自由・平和のために一日も早い終結を願いたい。この戦争が世界にとって軍事的な脅威であるのはもちろんのこと、軍事面以外でも様々な影響を及ぼすと考えられる。ウクライナ戦争も包含した現代の国際関係はどのようになっているのか、また、この戦争は国際政治が今後にどのようなインパクトを与えるのかを考えることは、これからの時代を見通すうえで重要であろう。そこで、今号の特集では、国際政治分野の専門家からご寄稿いただくこととした。


特集1「国際政治理論と現代の国際関係―経済的相互依存と米中経済関係―」は、広島市立大学広島平和研究所所長で当研究所の理事でもある大芝亮氏にご執筆いただいた。ウクライナ侵攻により、米国と欧州諸国、ロシアとの経済的な相互依存関係は崩壊に向かい、世界の中でも米中関係のように経済的な分断が進展している。本稿では、冷戦後、米国・西欧・日本と旧社会主義国や中国との国家間の経済的な相互依存関係が進展したが、なぜ現在、国際関係の分断が大きく展開することになったのか、国際政治の理論を参考に考察している。国際政治理論では、「経済的相互依存」が深まれば、平和に寄与するという仮説がある。国家だけでなく国際組織や世界企業、NGOなども重要な役割をはたし、貿易・投資などの経済交流を通じた世界経済全体の安定と繁栄を目指すという、リベラリズム・アプローチによれば、国家間で経済的相互依存が深まった場合、個々のイシュー(たとえば経済や環境など)により有効なパワーの源泉、イシューの重要度は変化しうる。すなわち、経済的な相互依存が深い世界では、軍事力の重要性を低下させ、平和に寄与すると考えられるのである。このアプローチに対しては、現実の経済摩擦・紛争の事例や、自国の地位が脅かされる場合には協力しないという相対的利得論の立場から疑問も提示されており、これについても言及されている。このような理論的背景を踏まえ、現在の国際関係の軸の一つである米中関係についても考察している。米中は、経済的相互依存を深めながらも相対的利得の世界の様相を強め、安全保障軸も強く関係して、関係は競争から対立へと向かっていることが導かれた。最後に、どうすれば、米中関係を対立・対決ではなく競争へと対立を段階的に緩やかにしていくことができるのかについても考察を加えている。


特集2は滝田賢治氏(中央大学名誉教授)に、「ウクライナ戦争と21世紀国際政治の行方」と題してご執筆いただいた。ウクライナ戦争に関して、冷戦終結後の米ソ(露)関係およびNATO諸国も含めた米欧関係の詳細な検討を通じて、現時点で考えられる原因を推察し、今回の戦争が21世紀の国際政治に及ぼす影響を暫定的に予測することを目的とした論考である。まず、ウクライナ戦争の背景を遠因、近因、直接的原因に分けて、各国の動きや国際関係の枠組みをもとに分析している。ソ連の消滅による冷戦の終結が遠因であるとしたうえで、近因としてロシアが国家安全保障強化を推進する上でアメリカ・NATOとの緊張が激化したこと、そして直接的な原因には、プーチン大統領のクリミア軍事併合、ドンバス地方への軍事攻撃の継続を受け、ゼレンスキーが対ロ強硬路線を打ち出さざるを得なかったことを挙げる。次に、ウクライナ戦争の現状を時系列に沿って考察し、この戦争がロシア対ウクライナから、対アメリカ・NATOの対立構造に変容する可能性を指摘している。加えて、論理の自己矛盾、ハイブリッド戦争と伝統的戦争の混合など、ウクライナ戦争の特異性についても言及している。最後に、ウクライナ戦争が国際政治に与えるインパクトとして、核兵器使用の敷居の低下、国連(安保理)と国際法の無力さが世界に示されたこと、エネルギー源を特定国に握られていることの弱みの露呈、中国による台湾への軍事侵攻の懸念、アメリカの台湾への軍事的関与の強化、日本の防衛政策の転換、エネルギー価格の高騰と世界的なインフレの発生といった7点を挙げている。最後に、この戦争が終結した場合に21世紀国際政治がどのような様相を示すのかについても述べられている。

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