春季生活闘争(以下、春闘)は、労働組合の諸活動のうち中心的なものの一つに位置づけられる。その目的は賃金改善にとどまらず、労働者の生活保障や社会的課題の解決など、すべての働く仲間のための運動として展開されてきた。
2023春闘では、連合が賃上げに改めて取り組んだ2014年以降では最高で、1995年以来ほぼ30年ぶりとなる水準の賃上げが実現した一方、実質賃金の向上にはいたらなかったこと、中小組合の賃上げ率が相対的に低位にとどまったことなどが課題として受け止められた。これらの成果と課題を踏まえ、連合は、2024春闘方針で賃上げ分3%以上、定昇相当分込みで5%以上とする賃上げ目標を示した。連合の各構成組織も高い水準の賃上げ目標を掲げており、UAゼンセンのように連合方針を超える要求もみられる(賃上げ分4%基準、定昇含め6%基準)。
弊誌の2月号では、例年春闘方針を取り上げている。今号は、開本浩矢氏(大阪大学大学院経済学研究科教授)、松丸和夫氏(中央大学経済学部教授)による論考2本と、連合会長・芳野友子氏へのインタビューを掲載している。
特集1は「2024春闘と新たな人的資本主義」と題し、開本氏にご執筆いただいた。今後も物価上昇が続くと予測されるなか、連合の春闘方針については、実質賃金向上のためにより高い水準の賃上げ目標が掲げられてもよかったのではないかと指摘している。生産性をめぐる検討では、労働生産性の向上にはアウトプットの引き上げが求められ、日常的な創意工夫や効率化を含むイノベーションが重要であるとする。また、このアウトプットを生み出すための考え方として、スキルや能力を活用するうえで人の前向きな心理状態を指す「心理的資本」の有用性に注目して論じている。最後に、エビデンスに基づいた論理的な交渉の重要性など、労働組合への提言もおこなっている。
特集2は、松丸氏より、「サプライチェーンの公正取引を通じた賃金の持続的引き上げ」をテーマにご寄稿いただいた。この論考では、サプライチェーンにおける労働者の人権や環境への配慮義務が企業に求められているなか、持続的な賃上げを毎年の春闘でいかに実現するかについて検討している。今春闘の最重要課題に、大企業・中小企業・消費者がそれぞれ、経営や生活を持続可能なものとする社会的コンセンサスの形成を挙げ、連合の2024春闘基本構想をふまえつつ、いまや政府、経済団体、企業も公正取引や社会的責任の重要性を認識している状況を評価している。2024春闘に向けて労働組合が持つべき視点として、①莫大な内部留保と日本の低賃金との関係、②マクロ経済としてみた賃上げ警戒論、③下請け労働者の賃上げ、④中小企業の労使交渉のあり方を提言いただいた。
特集3は、連合会長の芳野氏へのインタビューである。連合では、今春闘を「経済も賃金物価も安定的に上昇する経済社会へとステージ転換をはかる正念場」と位置付けている。直近2年の「未来づくり春闘」の取り組みを通じてデフレマインドの払拭に寄与したとする一方、実質賃金は現在もマイナスで推移しており、働く人びとの生活向上につながる賃上げをめざして引き続き取り組むとしている。また、2024春闘のポイントのひとつである「労務費の適正な価格転嫁」のほか、今年新たに方針に追加された「ビジネスと人権」などについて重点的にお話をうかがっている。