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Int'lecowk 2024年3月号(通巻1138号)特集概要

労働運動におけるカスタマーハラスメント対策

今号の特集で取り上げる「カスタマーハラスメント」は、対人サービス産業全般でみられる、顧客からの悪質な要求やハラスメントに該当する行為である。近年、カスタマーハラスメントの被害・相談件数が増加していることが報告されている(「職場のハラスメントに関する実態調査」、厚生労働省、2020年)。労働界でもこの問題への関心は高まっており、たとえば、連合やUAゼンセン、自治労、航空連合といった産別組織を中心に、実態調査の実施やガイドラインの作成、行政への働きかけ、世間への注意喚起などがおこなわれている。労働組合の取り組みを起点に、働く人を守るという観点でもその意義が広く認知されるようになり、行政でも対策が取られてきた。そのようななか、直近では2024年2月に、東京都がカスタマーハラスメント防止条例を全国で初めて制定する方針を公表した。こうした状況から、カスタマーハラスメント対策は、今後も社会的に一層重要なテーマとなっていくと考えられる。そこで、弊誌では、カスタマーハラスメントに関する問題に焦点を当てることとした。

特集1は「カスタマーハラスメントの現状と課題―より良い消費社会を実現するには」と題し、関西大学社会学部教授・池内裕美氏よりご寄稿いただいた。はじめに、カスタマーハラスメントの考え方を整理したうえで、ハラスメントが増加する心理的・社会的背景として、過剰なサービスが顧客の期待を過度に高めていること、環境の変化等により心身ともに疲弊した人が増え、社会全体が不寛容になってきたことをとくに重要な点として指摘する。次に、近年のクレーマーの特徴を分析し、3つの類型にわけ、それぞれの対処法も示している。最後に、企業、消費者、行政機関それぞれに託された課題と解決策についても考察いただいた。

特集2は、UAゼンセン副書記長・西尾多聞氏より、UAゼンセン流通部門による悪質クレーム対策の経緯や成果についてご執筆いただいた。流通部門では、悪質クレーム問題を政策課題のひとつに位置づけ、2015年から情報収集や意見交換を実施してきた。取り組み成果のひとつに組合員を対象に実施したアンケート調査(2017年)を挙げ、5万件以上の組合員の声が集まり、反響の大きさからメディアに取り上げられ、その後の運動の拡大に寄与したとしている。現在、UAゼンセンでは、カスタマーハラスメント対策を組織全体の重点政策に掲げ、連合や他産別との連携を強化しながら、「カスタマーハラスメント(悪質クレーム)対策基本法」の法制度化に向けた取り組みをおこなっている。

カスタマーハラスメントの問題は、当初は流通や小売業でおもに扱われてきたが、たとえば介護産業でも2021年の介護報酬改定でハラスメント対策が義務づけられたように、いまや対人サービス産業全体の問題とする見方もできる。そこで、特集3では、UAゼンセン日本介護クラフトユニオン副会長・村上久美子氏に、「介護現場における利用者・家族からのハラスメント対策の現状と課題」についてご執筆いただいた。同組織でもUAゼンセンと同様にアンケートを実施したり、組合員の声を反映させて国に対策を要請したりしている。具体的な取り組みのひとつに介護現場の課題を報告・議論するフォーラムを挙げ、そこで解決にいたった事例が聞かれるなど、一定の効果があったと評価している。最後に、利用者・家族からのハラスメント行為から介護従事者を守るためには、利用者・家族からサービスにたいする理解を得ること、そして、政労使が一体となって介護従事者の処遇改善や労働環境の整備などに取り組むことが重要であるとしている。

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