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Int'lecowk 2024年9月号(通巻1143号)特集概要

2024春闘 成果と今後の課題(前編)

Contents

2024春闘の焦点と持続的な賃上げに向けた課題

山田 久(法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科教授・国際経済労働研究所 理事)


〈産別組織インタビュー〉

UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)
古川 大 氏


電機連合(全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会)
中澤 清孝 氏


JP労組(日本郵政グループ労働組合)
安達 正美 氏


「2024春季生活闘争」を振り返って
仁平 章(連合 総合政策推進局長)

本誌では、毎年定例的に春闘の成果と今後の課題を特集している。特集は本号および次号(10月号)の2号にわたって掲載予定で、本号はその前編である。


2023春闘では過去にない高水準の賃上げを実現した一方、実質賃金を上回ることはできなかったという課題が残った。連合は、2024春闘を「経済も賃金も物価も安定的に上昇する経済社会へとステージ転換をはかる正念場」と位置づけ、「みんなで賃上げ。ステージを変えよう!」をスローガンに、持続的な賃上げの必要性を社会に呼びかけた。


本企画は、2024春闘の成果と課題をテーマに、専門家の寄稿、産別組織へのインタビュー、連合による総括で構成している。特集1は、「2024春闘の焦点と持続的な賃上げに向けた課題」と題して、法政大学経営大学院教授で、当研究所の理事も務める山田久氏にご執筆いただいた。はじめに、今次春闘で約30年ぶりの高水準の賃上げにいたった背景について、大手企業の経営者が賃上げに前向きになった要因のひとつに世界経済の局面の変化が述べられている。とりわけ、日本においては、円安トレンドへの転換と、未活用労働力の枯渇による賃金上昇がインフレを後押ししたとしている。そして、賃上げの効果を中小企業も含むすべての労働者に波及させるためには、労使の代表者からなる独立委員会を設置し、中長期の視点で賃上げ要求の方針を立案していくことや、地域の連携協議会をつうじて、適正な価格転嫁がおこなわれる商慣行の構築とともに生産性向上のための施策を面的に展開していくことなどが必要であるという提言が述べられている。


企業規模間格差の是正に向けた「付加価値の適正分配」も今次春闘のポイントであった。公正取引委員会の指針(2023年11月)が労務費の適正な価格転嫁の実現に向けた取り組みを後押ししたが、特集2の産業別労働組合へのインタビューでは、この公正取引の観点からもお話をうかがっている。今年はUAゼンセン、電機連合、JAM、基幹労連、JP労組、情報労連の6組織(略称、組織規模順)にご協力いただき、本号はUAゼンセン、電機連合、JP労組の記事を掲載している。これまで、インタビューは決まった組織に依頼してきたが、昨年からより広く依頼することとしており、今年はJP労組に初めてインタビューをさせていただいた。「将来ビジョン」を踏まえた春闘の取り組みや、民営化前から取り組まれている格差是正など、詳しくお話をうかがっている。


特集3は、連合総合政策推進局長の仁平章氏による2024春闘の総括である。連合の2024春闘方針について、生活向上に向けて企業規模・労働組合の有無を問わず「みんな」の賃上げをめざすという思いを込め、5%「以上」を目標に取り組まれた。妥結組合数・割合は、ともに比較可能な2013年以降で最も高い数字を昨年に引き続き更新し、平均賃金方式による賃上げ率は全体平均で5.10%となり、最終集計まで5%超えを維持したのは33年ぶりであった。この2024春闘の成果について、連合では、経済・賃金・物価が安定的に上昇するステージ転換に向けた大きな一歩であったと受け止め、ステージ転換を確実なものとするために、賃上げの流れを中期的に継続させることが重要であるとしている。最後に、今後の課題として、付加価値の適正分配と企業規模間・雇用形態間格差の是正に向けた取り組みの強化などが挙げられた。


本特集にあたって、ご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。

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