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Int'lecowk 2025年1月号(通巻1146号)特集概要

社会と労働の未来を語る

Contents

[座談会] 社会・労働の未来を語る
山田 久
久本 憲夫    
本山 美彦
ファシリテーター 古賀 伸明

(敬称略)

弊誌では長年、日本・世界における諸課題や展望について、理事や研究者をまじえて議論する座談会を企画し、特集として新年号に掲載してきた。本年の座談会は、昨年に引き続き、山田久氏(法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授・国際経済労働研究所理事)、久本憲夫氏(京都橘大学経営学部教授・京都大学名誉教授・国際経済労働研究所理事)、本山美彦氏(国際経済労働研究所所長)、古賀伸明氏(国際経済労働研究所会長)の4名に参加いただいた。


古賀氏からの問題提起を受け、① 2024年10月の衆議院議員総選挙の結果や与野党の情勢、②女性活躍推進政策のあり方、③働き方をめぐる環境の変化と人材育成・人手不足、④労働組合が果たすべき使命といったトピックで議論された。


はじめに、2024年の衆院選の結果とSNSの影響について、それぞれの視点から意見が述べられた。久本氏は、少数与党となったこと自体は国会で真面目に議論する雰囲気になってきたという意味で評価しており、SNSも今後重要なツールになってくるのではないかという考えを示した。本山氏は、兵庫県知事選と斎藤元彦氏をめぐる報道について意見を述べ、できごとの背景や本質を追求するという本来の役割を果たさず、画一的な報道になってしまっている現代のマスメディアの姿勢を批判した。山田氏は、スウェーデン訪問時の エピソードを引き合いに、政権が不安定化している状況にも左右されない枠組みを労使が構築していくような、本来の民主主義のあり方を改めて考えていく必要があると指摘した。


女性活躍推進政策のあり方に関して、久本氏は男性の働き方(働かせ方)が障壁となっていること、子育てしながら働く女性管理職が少ないことなどの問題を指摘し、そのような企業のあり方を批判していくのが労働組合の役割だと主張した。山田氏は管理職比率や勤続年数に男女差があることの背景に、とくに男性若年層における、職場での性別役割分担にかんするアンコンシャス・バイアスの存在を指摘し、男女がともに家事や育児に参画していくためには男性が積極的に長期育休を取得することが重要であるとした。他方で、 本山氏は、家事・育児を分担する若年層が増えている状況を評価しており、男女同一労働同一賃金や育児休業制度などの権利獲得のために労働組合が闘争を展開してきた歴史に、現代の若者の価値観の変化を重ね合わせた。古賀氏は、日本人の同質性が多様性の実現を阻害している可能性を踏まえ、「多様性」を考えるにあたって、まずはもっとも身近な問題として、さまざまな場で女性が活躍できることが重要であると述べた。


人手不足の現代における働き方・人材育成については、「エッセンシャルワーカー」を訓練して高度化させる「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」の考え方を山田氏が提唱しており、この考え方の解説を中心に議論が展開された。さいごに、労働組合・労働運動に求めることとして、久本氏からは組織化をしっかりおこなっていくこと、山田氏からは経済を長期的に安定させるには生産性も分配も両方追求していくこと、本山氏からは若者たちのコミュニティとしての労働組合を再興していくことが提言され、労働運動の「原点」に戻る重要性が共通して聞かれた。


座談会は2024年12月13日、弊所の東京連絡事務所と参加者の自宅をオンライン会議ツールでつないで実施した。

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