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Int'lecowk 2025年3月号(通巻1148号)特集概要

鎧を隠した袈裟を正しく見てこなかったことへの反省

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鎧を隠した袈裟を正しく見てこなかったことへの反省

 本山 美彦(国際経済労働研究所 所長)

本号の特集は、当研究所所長の本山美彦氏による論稿を収録している。本山氏は世界経済論を専門とし、米国主導の「グローバリズム」のいかがわしさを指摘する一方で、同国の世界戦略や、対日経済圧力の実態などの問題点の解明を行ってきた1。また、当研究所が主催する研究プロジェクトの主査も歴任し、代表的なものとして「日本型企業統治」研究PJ(2003~04年)、「日本の強み・弱み―その『仕分け』」研究PJ(2011~14年)、「AI社会に生きる」研究PJ(2018~21年)等がある2


本稿は、昨今の日本の経済状況に関する問題提起を目的とするものである。日本の『平家物語』の「鎧の下の袈裟」になぞらえ、これからの「希望の灯」となることを願って執筆されている。


2024年に実施された第57回アメリカ大統領選挙では、共和党のトランプ氏が民主党のハリス氏を破り勝利した。トランプ氏が大統領就任前に発言3した、「グリーンランドを米国領にする」等の内容や、関税率の大幅な引き上げについて、本山氏は本稿の冒頭で、「自由市場、自由貿易、個人の自由」という“袈裟”を脱ぎ捨てたことの表れであり、“袈裟”そのものが単なる「絵空事」であったことを示している、と指摘する。なお、本稿での“鎧”は国家の利権と大統領権限の意味で用いられている。


各節の概要は以下のとおりである。


Ⅰ 見かけの袈裟を批判し、国家介入という鎧の必要性に気付いたジェイコブ・ヴァイナー

ヴァイナーは新古典派経済学の主導者とみなされ、自由貿易論を確立したとされる。新古典派経済学は、「国家が介入するのではなく、市場経済に委ねる」という考え方であるが、ヴァイナーは国際的な権威による管理の必要性を示唆し、また、それぞれの時代に応じた関税同盟の必要性を至る所で述べていた。


Ⅱ 国家による市場介入を否定していたはずのリバタリアンたち

リバタリアンは、国家や政府の干渉に強く反対し、個人の権利と自己責任を重視することを信条としている。名うてのリバタリアンであるピーター・ティール氏がトランプ氏を支持し、同様にリバタリアンであるコーク兄弟は自身の財団(コーク財団)をつうじて知識人やシンクタンクに投資し、政策にも大きく関与している。トランプ氏もこのコーク財団に取り込まれていることを指摘する。


Ⅲ コーク財団による大学への寄付の急増によって芽生え始めた「反コーク運動」

アメリカでは、コーク財団による大学への介入にたいして、「コーク財団に反対し、私たちのキャンパスを護ろう」という「UnKoch My Campus」という全国組織が生まれている。この「反コーク運動」の萌芽的な動きを紹介している。


最後に、「真の自由とは何か」について考えることの重要性を述べ、それが広く行われることへの期待を込めて論稿をとじている。

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