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キャスリーン・スレイニー 著/仲嶺 真 訳『心理学における構成概念を見つめ直す』書評

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世の中には多くの心理テストと呼ばれるものがあるが、「この心理テストの結果はでたらめで、この心理テストの結果は正しい」というとき、何を根拠にすることができるだろうか。そもそも、その心理テストが測ろうとしている「こころ」が本当に存在するということを、どのように正当化できるだろうか。

キャスリーン・スレイニー 著(仲嶺真 訳)『心理学における構成概念を見つめ直す―歴史・哲学・実践の次元から―』は、これらの根本的な問いに直接かかわる「構成概念」および「構成概念妥当性」を扱った一冊である。この本では、構成概念というアイデアがどのように形作られ、批判・評価され、更新されてきたかが詳しく解説されている。
著者はまず、初期の研究者たちがどのように構成概念妥当性を定義し、確立しようとしたのか、その歴史を丁寧に描写している。次に、著者は構成概念の哲学的基盤に焦点を当てる。構成概念がどのような哲学的な土台をもとに作り上げられてきたのか、あるいはどのような哲学的理論によって説明できるのかを紹介している。さらに、著者は実際の心理学研究において構成概念がどのように使われているかを探る。現場の研究者がどのように構成概念の妥当性を確認しているのか、その実践の実態を、レビュー論文などをもとに説明している。そのうえで、本書としての提言が最後になされている。
本書の内容はかなり高度ではあるが、文章そのものは読みやすく、翻訳書にありがちな不自然でぎこちない表現もみられない。また、まえがきにおいて訳者が本書の内容について独自に整理・解説を加えていることもありがたく、読者がスムーズに内容を理解できるように工夫されている。
構成概念は現在の心理学のほぼ全ての領域において広く浸透しているため、本書は心理学という学問そのものを理解するうえでも非常に役立つ。「構成概念」や「妥当性」をより深いレベルで理解したい人、心理学が扱ってきた(扱っている、そして扱うべき)「こころ」とは何かに興味・関心がある人にとって、非常に有益な情報源となるであろう。

阿部 晋吾
公益社団法人国際経済労働研究所 研究員
関西大学 社会学部 教授

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