活動レポート
こんにちは。研究員の景山です。
国際女性デーに労働組合のジェンダー・ギャップについて考えてみませんか。
組合員の声を拾い上げ、経営側に提言を行うことができる労働組合は、職場のジェンダー・ギャップ解消にとって重要な存在といえます。しかし、組合員がジェンダー・ギャップ是正に関する声を上げたとしても、組合役員が男性ばかりでは、せっかくの意見を活かすことが難しそうです。
この記事では、国際経済労働研究所が発行している『機関紙Int'lecowk』(イントレコウク)に掲載された論文からジェンダー・ギャップに関する部分を抽出し、労働組合のジェンダー・ギャップ解消について考えます。
【今回読む論文】
「1990年代から2020年代のジェンダー・ギャップの変遷」 (鈴木文子)『機関紙Int'lecowk』2024年8月号
本論文は、労働組合のジェンダー・ギャップだけでなく、男性の幸福感の低さや男女別の働きがいの差など、さまざまなデータを示しています。
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――組合役員の男女比は、この30年で大きく変わらず
職場のジェンダーギャップを改善するうえで、労働組合運動による働きかけは不可欠ですよね。組合役員に女性が多いと、仕事や職場でのジェンダー・ギャップに関する声も拾ってもらいやすい気がします。
2020年データの組合役員の男女比を確認すると、男性は 4 割以上が組合役員や委員の経験がある一方、女性は 3 割程度にとどまっています(図1)。組合役員未経験者は、男性で半数程度である一方、女性は7割を超えており、ほとんどの女性は組合役員未経験者であるといえるでしょう。
驚いたのは、組合役員経験の男女差について、1990年代データから2020年データまで大きな変化がなかったことです。1990年からの30年間、女性の社会進出は進んだと考えられますが、組合役員経験者をになう女性の割合は、増えてこなかったといえるでしょう。
――組合役員をになう意志は男性よりも女性が低調
この30年間、なぜ女性の組合役員の割合は横ばいなのでしょう。労働組合の方からも、「女性の担い手が少ない」「女性は組合役員になりたがらない」という話を聞くことがあります。
「必要であれば役員になって組合活動をになう」という回答は、各年代とも女性の方が男性よりも低くなっています(図2)。いろいろな要因が思い浮かびますが、個人的には、私生活面で育児や家事が女性に課されやすいことが、女性が組合役員になることへの障壁になっている気がします。
しかし実際のところ、なぜ女性のほうが組合役員に消極的なのでしょう。本文では、はっきりとした理由が同定されなかったものの、1つの可能性として女性の組合役員経験者が少ない理由を指摘しています。それは、女性が組合役員になりたがらないために女性の組合役員選出が困難となり、女性役員が少ないことによって。さらに女性が組合役員になりたがらなくなる、という悪循環が発生しているのではないか、という可能性です。
――「男女共同参画にかかわりたい」という回答は男女ともに低下
最後に、組合員は男女共同参画にどの程度かかわりたいと考えているのでしょうか。
・回答者自身が「男女共同参画を推進するための職場制度」にどれくらいかかわっていきたいか(一般関与)
・「(「どちらかといえば」を含め)かかわっていきたい」と回答した人のなかで、組合を通じてかかわりたいか(組合関与)
・現状、その領域における自身の望みは労働組合でどれくらい実現できているか(組合評価)
を質問しています。要は、その活動に興味があるか、組合を通してかかわりたいか、今の組合活動としてどうなのか、ということですね。さらに、この3点の回答傾向の高低を組み合わせて、その活動領域が現在組合員にどうとらえられているのか、8つのタイプに類型化しています。
1990年は、女性の半数以上が「男女共同参画を推進するための職場制度」に(「どちらかといえば」を含め)かかわりたいと回答し、そのうち約3割は労働組合を通してかかわりたいと回答しています。類型としては、男女共同参画に興味・関心をもっており、労働組合を通じてかかわりたいという意志はあるが現状の組合活動としては不満を感じている「2.活動内容検討型」に該当しています(表1)。
しかしその後、組合を通してかかわりたいという意識は低下していきます。2000年の女性は、男女共同参画に興味・関心は高いものの、組合を通じてかかわろうとはしておらず組合への評価も低い「4.組合無関心型」に、2010年以降は、男女共同参画に興味・関心すら示していない「8.無関心類型」に分類されました。男性も、男女共同参画に対する関与意識が年代を経るごとに低下しています。
1990年代から男女共同参画に関する切実さが薄れたのか、それともそもそもジェンダー・ギャップの解消が労働組合が扱う問題だと認知されていないのか、気になるところです。
ただし、2020年時点でも女性の1/4は男女共同参画に「かかわりたい」と回答しているんですよね。男女共同参画に関心がある人々の声を組合活動につなげていくことで、ひいては無関心層にも「労働組合で職場の状況が変えられる」というポジティヴなリアリティ(社会的現実)を広げられるとよいですね。
――おわりに
ここまで、組合員意識調査から、ジェンダー・ギャップに関する分析内容を確認してきました。個人的には、女性の組合役員経験率がこの30年間でほとんど変わっていないことが驚きでした。
内閣府の調査では、女性の結婚・出産時期に労働力率が低下する「M字カーブ」は1985年と比べて「台形」に近づき、若年層を中心に配偶者の有無による差が縮小していると指摘されています(参考)。女性の社会進出が進んだだけでなく、既婚・未婚、子どもあり・子どもなしなど、働く女性の属性は多様化していると考えられます。
ジェンダー・ギャップの課題に取り組むことができる組織として、今、労働組合の存在感は高まっているのではないでしょうか。組合が職場のさまざまな困りごとを拾い上げ、女性の参加しやすい体制を整えるためにも、この論文をぜひ参考にしてみてください。
まとめ
・男性は 4 割以上が組合役員や委員の経験がある一方、女性の組合役員経験者は 3 割程度。この割合は、1990年からの30年間、ほぼ変化していない。
・「必要があれば役員になって組合活動をになう」という意識は男性よりも女性で低い。女性は労働組合に対する関与意識が低いために役員選出が難しく、役員経験を通して関与意識が向上するという機会を持ちにくい、という悪循環が起きている可能性がある。
・1990年、女性の半数以上が「男女共同参画を推進するための職場制度」にかかわりたいと回答していたが、その後、かかわりたいという意欲は低下。ただし2020年時点でも女性の1/4は男女共同参画に「かかわりたい」と回答しており、組合活動として取り組む余地はあると考えられる。
景山千愛